優しいジゴロ-4
4.
その女は和服を着て、いつも独りだった。
土曜日の遅くに来て、ラストまで、ジントニックをすすりながらバンドを聞いている。
なんとなく、得たいの知れない女だった。
「こんばんわ、いつもご来店有難うございます」
「こんばんわ」
「和服がよくお似合いになりますね」
「そうですか、有難うございます」
「母がいつも和服だったもので、とても懐かしいです」
「和服だと老けて見られて、損をします」
「いえ、決してそんなつもりでは・・・おきれいです、一曲お願いできますか?譲二と申します」
礼子と名乗ったその女は、ぞうり履きの足で譲二のリードに巧みに付いて来た。
「随分、踊り慣れていらっしゃる」
「ええ、若い頃は毎晩のように踊っていました」
「お若い頃って・・・そんなお歳には見えません」
「まあ、踊りもお上手ですけれど、お口もお上手ですこと」
ラストダンスが、メロディーの尾を引きずって消えた。
譲二がそっとハグの腕に力を入れて、礼子の胸を引き寄せた。
「今晩、付き合っていただけませんか?」
礼子が譲二の耳に囁いた。
「いいですよ、どうせ暇ですから」
タクシーに乗って、アクセルを踏む間もなくホテルに着いた。
グランド・ホテルのレセプションで、礼子はキーを受け取り、エレベーターに乗る。
窓の外に、サンシャイン60が、60階建ての威容を暗闇を押し分けて聳え立っている。
今は珍しくもない超高層ビルの草分けのこのビルは、池袋のレジェンドだ。
東京裁判の日本人A級戦犯容疑者が収容されていた巣鴨拘置所、知る人ぞ知るスガモ・プリズンの跡地に建てられたものだ。
「どうぞ、お先にシャワーをお使いになって・・・」
礼子が、ベッドの上のバスローブを手渡してくれる。