ぶち切れた娘-3
「ヒッ…」
耳の痛みよりも、真希の狂気染みた叫びが、号泣に逃げていた真奈美を現実に引き戻した。
「黙らないと殺すからね」
ドスの利いた娘の声のトーンが、真奈美の心を揺さぶった。
いっそ、そうして欲しい…
一瞬そう思ったが、真奈美はやはり母親だった。自分はどうなってもいいが、その後に訪れる家族の不幸を思うと、真希の手を汚させるわけにはいかなかった。
死ぬなら自分一人でこっそり死ねばいい…
その思いが芽生えたことで、真奈美の心は僅かに軽くなった。号泣がやみ、それでもヒクヒク静かに泣き続ける真奈美に向かって、気になることを真希が聞いた。
「お前、いつ潤くんをたらし込んだんだよ」
今さら隠しても仕方がなかった。真奈美は、詰まりながらも話し始めた。
ネットの掲示板で見た【カプGet】の集まりに参加したこと。その時に知り合った矢野と智子と喫茶店に行き、睡眠薬を飲まされて犯されたこと。その時に撮られた卑猥な画像で脅されて、関係を続けさせられていること。
「ちょっと待て!【カプGet】でGetされただぁ?そんな漫画みたいな話を誰が信じるんだよ。もう子供じゃないって言ってんだろ、なに適当に誤魔化してんだよ」
「うそじゃないのよ!本当に脅されてるのよ!」
これだけは信じてもらいたかった。真奈美は声を張り上げた。
「それが本当なら、お前はバカだ。そんな卑劣な脅しに屈して、何家族を裏切ってんだよ」
まさしく真希の言う通りだった。娘に指摘されて、真奈美の目からまた涙がボロボロと溢れ始めた。
「ううっ、ご、ごめんなさい…ううっ…」
「泣くなつってんだろ。なにが『うそじゃないのよ〜』だ。黙って聞いてたら適当なこといいやがって!」
「本当なの、信じて!」
「もし、本当だとしても、今の話を聞いてたら、お前の浮気相手はその矢野だろうが。どこに潤くんが関係するんだよ。どうせ、ヤリマンに目覚めたお前が、潤くんをタブらかしたんだろうが」
まさか自分の娘がそんな言葉を使うとは信じられなかった。目を見開いて驚いたが、今の真奈美は、それを注意できる立場にはなく、ただ「違う…」と小さく絞り出すしかなかった。
「なにが『違う』だよ。あんな変なメール潤くんに送りやがって、ヤリマン以外に呼びようがないだろうが。どう違うか言ってみろよ」
「じゅ、潤くんも真希にバラすって言ってあたしを犯したのよ」
最近、潤の優しさに惹かれ始めていた真奈美は、心の中で潤に詫びながら叫んだ。
「う、うそだ…」
それは憧れの潤とは程遠かった。爽やかな潤のイメージを崩す真奈美が赦せなかった。