第5話『シットバトルクラブ』-1
9月○日。
近所の生活雑貨店に新しいコーナーが出来た。 『ジエイタイ・コーナー』といって、軍へ入隊希望者を募るチラシや見学可能な軍施設マップ、軍へ入隊した場合の特典リーフレットなどが平積みされていた。 個人的に興味をもったのが『軍馬用衣装』の模造販売品だ。 既に軍へ入隊した人はいて、噂によると、あたし達が軍に参加した場合に最初に配属されるのは『軍馬』らしい。 だったら、実際に軍にはいる前に、ここにある『軍馬用衣装』を着けてみたらいいんじゃないか……なんて思ったわけで。 もちろんあたしは、これっぽっちも軍に参加するつもりはない。 『ニホン』は嫌いだし、やりたいことはいっぱいあるし、好き好んで『軍馬』だなんて、ウマ扱いされるなんて真っ平だ。 ただ、毎日新しい規制が増える息苦しさも事実なわけで、もしも軍に参加することで息苦しさが緩くなるなら、それは100%悪いことかというと……1%、いや5%くらいならいいこともあるんじゃないか、なんて気がしている。
展示されていた『軍馬用衣装』は『S』『M』『L』『LL』の4サイズ。 身長的に、あたしが着るとしたら『S』サイズだと思う。 『S』サイズのラバースーツは想像したよりも一回り以上小さかった。 こんな小さい服、どうやったら着れるんだろう? それに唯のゴム製服のはずなのに、重量感が半端ない。 ずっしりし過ぎてて、とても不思議。 もしかして、一応軍服(?)なわけだから、防弾機能でもあるんだろうか? 重たいといえば、ハミも目隠しも、腕輪に足環に首輪にしても、どれもすごく重たかった。 こんな錘を全身に身に着けたら、あたしならエッチラオッチラ歩くだけで精一杯と思う。 とてもじゃないけど、正規の『軍馬』みたく腿を水平になんて上げられそうにないし、走るのだって難しそう。 ということは、やっぱり『軍馬』になるには、物凄く過酷な訓練があるっていうことだ。 クラスメイトに軽々しく『軍に入りたい』なんていう子は結構いるけど、みんな『軍に入る=軍馬になる可能性あり』『軍馬は体力的に物凄く過酷な役』だってことを分かってるんだろうか? 分かった上で『軍に入りたい』のなら止めはしないけど、そうじゃないなら絶対止めた方がいい。 間違いなく断言できる。
今日の『2ch』鑑賞は午後にまわされた。 映像的に食事前は相応しくないとか、うんたらかんたら言われていた。 タイトルは『シットバトルクラブ』。 『シット』は旧世紀に普及した言語で意味は『ウンチ』ってことを、何かの本で読んだ。 ということは、凡そ内容も見当がつくというものだ。 番組内容は予想通り、汚い映像のオンパレードで、食欲が一気になくなってしまった。 まあ、あたしはトイレが遠いタイプ――要するに便秘気味だから、この番組に出演せずに済むことを祈るばかり。
お昼の政見放送で、新しく公布された『更衣周知法』の中身が明らかになった。 女性限定の法律で『着替え中は常に足を肩幅以上に拡げること』、『更衣中は常に【ハイグレ、ハイグレ】と大声で叫び、自分が更衣中なことを周囲に知らせること』、聾者対策として『更衣中は随時両手でチョップをつくり、股間の食い込みに合わせて【Vの字】を描くこと』の3点からなる。 法律内容に続き、何故このような法律が施行されたかに対する説明があった。 かつて男子が無人と思って教室のドアを開いたら、中に黙って更衣していた女子がいたことがある。 教室でこっそり更衣していた女子が全面的に悪いにもかかわらず、女子は男子を『変態』『痴漢』と罵倒した。 こういった一方的な冤罪ケースを無くすため、『被害を被る可能性がある側が自助努力する』という原則のもと、『着替え中の女子が自分の存在をアピールする』ために制定された法律だそうだ。
正直、納得できない。 なんで女子ばかり、ああだこうだと要求されなきゃいけないの? 男子が女子の下着を見たがるのが悪いのに、これじゃまるで、女子が悪くて我儘みたいな言い分だ。 そりゃあ、誰もいない教室で着替えるのはよくないかもしれないけど……特殊なケースを持ち出してきて、女子の行動全部に規制をかけても良いなんて理屈はズルいと思う。 でも、軍がそうしろっていうなら、あたし達は従うしかないわけで……ああ、また1つ腹が立つルールが増えてしまった。