二度目の聖夜-7
何故か私は風馬君の居る美術室の前にいた。
佐伯君は優しいけど自分の事を顧みないところがあるから、きっと電話してもううん、これからも何かあれば昨日みたいに「大丈夫だっ!♪」何て全然大丈夫じゃないのに平気で嘘つかれるんだろうな、そう思うと。
無意識のうちに彼は外見だけの恋人になっている気がする。
ここにきたのは恐らく私が風馬君に取り換えたい…という気持ち。
けどそんな私の身勝手な思いはばっさりと切り捨てられ。
「っ!」
扉の隙間から風馬君と稲葉さんがキスしている光景を目の当たりにし。
その気配に気づいた稲葉さんが「誰!?」と叫び、私は観念して扉をあける。
「若葉ちゃん!?」
予想外の人物の登場に目を丸くする。
「何、してんの?」
突然変な事を言い出す私。
「何ってキスしてるに決まってるじゃない。」
「そうだけど…。」
「何よその目、まるで浮気現場でも見かけたような。」
「だって!」
「アンタはあの佐伯って人と付き合ってるんでしょ!?」
「っ!そ、そうだけど…。」
「若葉ちゃん、やっぱり何かあったの?」
「小鳥遊君!どうして彼女の心配するの!?」
「だって…っ?」
おどおどしてる彼に言い聞かせるようにキスを強引にしだす。
「…柊さん、私ねー彼と付き合う事になったの。」
「!」
衝撃が走り出す、実は私も彼の事を。
「ひょっとしてその彼と喧嘩でもした?それで別れてこの小鳥遊君の所へ?」
「ちっちが!」
ハッキリ否定出来ない。
「ふざけないで!彼は私の物よ!どうして優柔不断なアンタ何かに盗られなきゃいけないのよっ!」
「それは…。」
「い、稲葉さん?やめなよ…何もそこまで。」
「んもぅーほんっとお人好し!空気読んでよ!貴方が付き合おうって言ったんでしょ。」
え、そうなの?
「う、うん…まぁ。」
「…だったら私たちの空間に入ってくるこの人は誰?困ってる幼馴染?いいえ!私と言う
大事な彼女を困らせる、いわば害虫よ!」
何、急に態度が豹変し出して。
「害虫だ何て酷いよ!それはいくらなんでも。」
「あぁーもぅうぜーなこの弱虫糞野郎がぁっ!」
「ひっ!?」
「んじゃーここでハッキリ決めろや!」
「なっ何を?」
「てめぇーは馬鹿かっ!?決まってんだろ!私と付き合うのか、それともこのふわふわした馬鹿たれ女と付き合うのか…。」
重すぎる空気。
「それは…。」
「早く決めろやっ!いつまでも大の男がぁ蛆虫みてぇーにうじうじうじうじしてよぅ!」
ヤクザか…。
彼は目を瞑り、少しの間があった後、答える。
「君の言うように柊さんには佐伯君が居る、だから僕たちの間に入る事は許されない。」
「……。」
きっぱりと言われたその言葉。
「御免、稲葉さん…僕間違ってた、彼女が幼馴染だからって。」
「小鳥遊君。」
完全に彼女側についた彼、それを聞いて般若のように恐ろしい顔だった彼女が普段通りのいやそれ以上に甘えた顔に戻り。
「若葉ちゃん、悪いけど悩みなら他を当たってよ、それこそ佐伯君に。」
「そうそう♪悩んでるからってなぁーんでこんな所にくるかなー♪」
どうやら私は完全に人の恋路を邪魔してしまったようだ。
それから二人は邪魔者が消えた所でキスを再開する。
風馬君の前にはそれから二度と現れず、また今彼の佐伯君とも別れた、それも後味の悪い感じで。
「嘘つきっ!なぁーにが大丈夫よ!所持金がほとんどないでしょう?」
「けど俺はぁ!」
「貴方って優しいけど馬鹿だよね?それも筋金入りの…。」
「ばっ馬鹿って。」
「そんな事して、私が喜ぶと思ってるの?」
「勝手な事言うなよ!アンタが俺を誘ったんだろ!?」
「誘ってない!」
「いいや誘った、あんな言い方されれば誰だって飛んで行くに決まってんだろ!?今にも消えそうな声でさぁ、…俺が今どんなに大変で金もないの分かってたくせに!」
「そっ、それは、でも!」
「こんな馬鹿で身勝手奴だった何て思わなかった!」
「もう別れましょう!?」
「おう望むところだ!これで少ない金が減らずに済むぜ!」
「ふん!こっちこそこのまま付き合ってても平気で嘘吐かれないで済むんだもん!」
そして私は生涯一生独身でいた、もう二度と恋なんかしない、巴ちゃんとずっと女の友情のみで乗り越えた。けどその彼女も一条君と言う彼氏のせいで徐々に距離は離れていき、
気が付けば友達は誰も居なくなり、祖父も亡くなり私は天涯孤独となった。