誘い-4
「今の逝く姿は最高だ。こんな美しく悩ましい逝き顔は初めて見た。
ねぇ、協力してくれたら普通の2倍出しましょう。奥さんはとてもチャーミングだ」
イトウが言うと、美紀子は顔を上げた。
「大丈夫。顔にはモザイクをかけるから、どこの誰かはわからない。
それにタイトルに九州の女なんて書いてあっても、実際は神奈川だったり、人妻だといってもハイミスだったりするんだから……全部が全部、本当のことではないんだ」
イトウが続けた。
「ねぇ、奥さん。ただ男に抱かれるのなんかはよくあることだけれど、SMは希望してもかなわないことがほとんどよ。
ねっ、やってみよう。ねっ?」
すかさずケイコが助けていく。
ちょうどこのとき、パソコンからまた女のアクメの叫びが聞こえてきた。
「ねぇ、聞こえた?……奥さんもああなれるのよ。
動画で見ていたことが、実際に体験できるのよ。
わかって?
こんなことって、宝くじにあたるくらいめずらしいことなのよ。監督からオファーされるなんて……」
ケイコが言うが、美紀子は俯いたままだった。
「断る返事が聞こえないということは、……承諾したってことで、理解していいね」
「ああっ……そんな……」
今度はイトウが有無を言わせずに一気にたたみ込んでいく。
「素晴らしいわ。一介の主婦が、……もう、今から女優の仲間入りよ!」
ケイコも続けた。
「さぁ、ここにサインして。
そしたら、ロケに出発だ。奥さん、ロケ先は温泉だよ。
なぁに、明日の午前にはお宅に間違いなくお送りしますから安心してください」
美紀子は、イトウの言いなりにサインをして、ケイコに手伝ってもらい、泊まる支度を始めた。