第１話『世界の果てまでイッてきます』-1
９月○日。
悪い夢から醒めてくれない。 街中に『騎兵』がいて、あたし達を見張っている。 なんなのアレ？ わざわざ女の人を『馬』にして、それに乗って何が楽しいの？ ハミを咥えて、眼帯をつけて、腕は背中に組んだまま固定されて。 そんな窮屈な恰好で膝が水平になるまで足をあげながら歩く女の人――『軍馬』といって、『ジエイタイ・アーミー』の新兵が配属される任務と聞いた――が気持ち悪い。 ホンモノの馬みたいな尻尾をお尻の穴から垂らして、馬みたいな蹄（ひづめ）付の靴を履かされて、しかも爪先立ちで歩かされている。 歩くたびに、カッポカッポ、音がするのも耳障りだ。 『軍馬』の背中に鞍をおいて、ハミから伸びた手綱と鞭で鞍上している女の人――『騎兵』といって、『軍馬』が昇格したら『騎兵』になるらしい――はもっと気持ち悪い。 全身黒いラバースーツで、スーツ越しに胸元に見える突起は、あれは乳首なんだろうか。 だとしたら揃いも揃って乳首をコチコチに勃起させながら、女の人に乗って街を歩いているわけで、変態以外の何者でもない。
学校の『道徳』の時間は、いつからか『２ｃｈ』で放映する『法律違反して捕まった人』を見る時間になった。 普段絶対に見たくない『２ｃｈ』を強制的に見せられるなんて、苦痛以外の何者でもない。 今日の番組は『世界の果てまでイッてきます』。 あたしが大嫌いな中の１つだ。 『無断で性行為（挿入・自慰・絶頂・射精）をした罪』で逮捕された人が世界の彼方此方に行くよう指令を受け、軍人１人に連れられて各地にハンディビデオを持ってゆき、そこでオナニーさせられる。 その様子を軍人が撮影したものが放映される仕組みだ。 映像の中でちゃんと射精、もしくはイけたら赦免してもらえる代わりに、イけなかったらペナルティになるっていう……最悪すぎる番組構成。 どんなペナルティかは知らないけど、番組に出てる人が揃って全然逆らわないくらいだから、きっとメチャクチャに違いない。 監視は軍人１人なんだから、どうせなら逃げだしたらいいのにって思うけれど、逃げられない理由でもあるんだろうか。 『ペナルティでオチンチンかクリトリスを切断される』なんて噂がまことしやかに流れるくらいで……気持ち悪くなってきた。 考えても分からないなら、考えない方がいい。
楽しい筈のお昼休みも今は昔。 クラスメイトと、教室で揃って『１ｃｈ』の政見放送。 今日加わったのは『整形申告法』という。 この法律により、過去に整形手術を受けた市民は速やかに名乗りでて、身分証と身体の一部に『整形施術済』を印字しなくてはならなくなった。 『整形による過度な容姿の変更は、遺伝子レベルの容姿情報に対する冒涜』で、整形は『子孫に対する罪』らしい。 ピアスの穴やタトゥーも整形に含んでいて、クラスにもピアスをしてる子が何人かいる。 横目で様子を伺うと、何人か真っ青になっていた。 あたしは……地味で大人しい側だ。 真面目っていうか、穴を開けるのが怖かったから、ピアスがカッコいいと思っても一歩踏み込んではいない。 派手なコには悪いけど、心底胸を撫で下ろした。