第1話『世界の果てまでイッてきます』-3
番組2人目は『対人オナニー』が中心だ。 ただでさえ恥ずかしい行為を人前で完遂するには、並々ならぬ覚悟が必要になる。 今回のように『恋愛感情を持つ相手にしてのオナニー』もあれば『馬鹿にしていた部下に股を拡げてオナニー』もあるし、『担任するクラスの全生徒に膣を見せながらオナニー』や『年頃の娘、息子に見られながらのオナニー』もある。 共通しているのは、誰もが自慰の途中で泣き出すこと。 全員が声を揚げて泣くわけではないが、涙を見せないケースはない。
3人目の女性はボブカットで日焼けした褐色肌の、健康的な女性だ。 ただし第一印象とは裏腹に、目許には皺が目立っているし、首の皮にも弛みがある。 唇をキュッと結んだ険しい表情で、女性はモニターに対峙する。
『……メルク・ゴードン、42歳……牝。 身長160センチ、体重58キロ。 スリーサイズ……95、65、91……。 昨日夜、カウンターで一緒になった男性と……なりゆきで口づけをしました。 それ以上は何もしていません、本当です……一度だけ、しかも軽くキスしただけです……』
ここで一度深呼吸すると、
『ですが、キスは性行為に該当します。 行きずりの相手に性欲を覚え、衝動に身を任せてしまいました。 許可されていないにも関わらず、性行為に励んだことをお詫びします。 恥知らずな私に相応しい、恥を公開する場を与えてくださったことに感謝します。 どうぞ私の恥ずかしいマスターベーションを最後までご覧くださいっ』
そこから先は一度もどもることなく一息に言い切った。 しばらくモニターを睨んでから諦めたように頭を下げて、ここで画面が暗転する。 明かりが戻った画面には広大な凱旋門が映っていた。 旧世紀に世界遺産として認定された名建築だ。 そんな門の支柱の1つに、赤いコートに身を包んだ先ほどの女性が歩み寄る様子を、カメラが遠巻きに映している。 辺りの様子を伺いながら近づいたと思うと、バッ、女性はコートを放り投げた。 弛んだお腹、垂れたお尻と乳房の脂肪を弾ませながら、女性は支柱にしがみつく。 そして股間を思いきり左右に拡げながら、世界遺産の凱旋門に、自分の股間を圧しつけた。 そのまま小刻みに身体が震え、ビクン、ビクンと股間を支柱に打ちつける。 やがて異変を察知した警備員が駆け寄ってきて女性を取り押さえるのと、女性の首輪が絶頂を告げる点滅を見せるのがほぼ同時だった。 全裸の女性が何人もの警備員に地面に押さえつけられ、野次馬がわらわらと集まってくる中、徐々に画面が暗転する。
続いて画面に浮かんだ指令メモによれば、『ランス凱旋門を直接用い、手を使わずに絶頂すること』。 ちなみに警備員や周辺市民に対する事前の説明や根回しはない。 公開自慰に励む女性に対するサポートなんてあるわけがない。 撮影クルーは、あくまでも女性がオナニーする様子を記録するだけだ。 突然現れた全裸の変態女性が世界遺産にマンコを擦りつけるのだから、警備員にすれば迷惑千万、市民にとって無礼千万なのは間違いない。 それでも女性からすれば、遠慮しておずおずオナニーなどすれば、あっという間に取り押さえられるのがオチだ。 そうなってしまっては、当然指令違反となり『不合格』のレッテルとペナルティが待ちうけるわけで、何が何でも全力でオナニーするより他に道はない――尤も『合格』したとて、現地で『淫行』や『風紀紊乱』、『器物破損』の罪状で逮捕されるのは免れないけれど。
番組3人目で登場する性犯罪者――性行為抑制令違反者は、世界各地の名勝観賞を兼ねて、名勝を活用した『マーキング・オナニー』が課せられる。 要するに世界遺産に自分のオマン汁で匂いつけしろ、ということだ。 マーキング対象は大まかに2系統あり、例えば『エッフェル塔で股擦りオナニー』や『モアイ象の帽子突起でバイブオナニー』、『斜塔の廊下で匍匐オナニー』や『タワーブリッジの欄干で股裂きオナニー』のような『人工物系』がある。 もう1つは『マッキンリー山頂にある三角点を咥えてオナニー』や『北極点のイギリス隊旗でマンズリオナニー』、『ロッキー山脈に生息する天然グリズリーの半径10メートル以内でワイルドオナニー』や『シベリアタイガーの洞穴の最深部で腰ふりオナニー』などの『自然系』だ。 前者は『警備員による妨害』で、後者は『現地でのハプニング』により、共にオナニー失敗率は50%を上回る。