一瞬の違和感-7
付き合っているのに、奈緒と野々村が一緒にいる所なんてまるでなかった。
あまりに接点を持とうとしない奈緒に「一緒に学校帰るくらいすればいいのに」なんて言っても、真っ赤になって嫌がる彼女。
野々村も野々村で、男友達と遊んでばかりで、奈緒に話しかけることもほとんどなくなったし。
そんな二人だから、付き合っていることすら疑わしかった、はずなのに。
友美が感じた違和感が胸を締めつけ、部屋着のスウェットの胸元をキュッと握り締める。
「あ……そういえば、奈緒、そんなこと言ってたかも。やだなあ、あたしボケちゃって」
そう笑っては見るけれど、白々しいのは友美自身が一番よくわかっていた。
いたたまれなくなった友美は「それじゃあ、また掛け直します」なんて言い訳だけを残し、早々に電話を切った。
電話を切った途端、耳が痛くなりそうなほどの静寂が友美を襲う。
そんな静けさの中で、友美はギリ、と歯を噛みしめた。
奈緒と野々村は付き合っているのだから、一緒にいることを咎めるつもりはない。
ただ、奈緒が友美に嘘をついたこと。隠し事をしていたこと。
それが許せなかった。
嫉妬によく似た黒い感情が膨れ上がる。
いや、これは間違いなく嫉妬であった。
奈緒を取った野々村に対して? 一足先に彼氏を作った奈緒に対して?
嫉妬の対象がどちらに向いているのかわからなかったけど、その黒い感情は消えるどころか勢いを増した。
(ウブなフリして、男とコソコソ会ってるなんて)
噛み締めた奥歯に更に力が入る。
それでも、まだ野々村と会っている証拠はないと一縷の望みは捨てきれなかった。
だけど、こうなったら奈緒に話を聞くまでは、いてもたってもいられない。
とにかく奈緒に会おう。
野々村と会ってたとしても、それを正直に話してくれたらそれでいいのだから。
そう決めた友美は、スウェットを勢い良く脱ぐと、ハンガーに掛けていた制服に手を伸ばすのだった。