一瞬の違和感-5
そんな折、シャーペンを持つ手が止まる。
「あれ、これどうしてこうなるんだろ」
視線の先には数学のプリント。図形の証明問題だ。
友美はただの計算問題なら得意であるが、こういう文章問題は苦手であった。
小さな頃から本を読むことが好きだった、根っからの文系人間の友美だが、数学に関してだけは、文章問題が一番不得意である。
勉強が好きだけど、年々難しくなっていく数学は、年々嫌いになりつつあった。
「奈緒に聞いてみよ」
奈緒は友美と違って、理数系に強い。
だから友美が国語や英語なんかの文系分野を奈緒に教え、奈緒が理科や数学の理数系分野を教える、ギブアンドテイクが成り立っていた。
今日は家族で食事に出かけると言っていたけど、まだ5時を過ぎたばかりだし、きっとまだ家にいるはずだ。
そう思いながら、友美は机の隅に置いてあるスマホを手に取ると、慣れた手つきで奈緒の家に電話をした。
「はい、桜井でございます」
呼び出しのコール音を2回ほど聞いた所で、品のよい女性が電話に出る。
真面目な奈緒は、携帯電話とかスマホを持っていない。
「あ、相馬ですけど……」
「ああ、友美ちゃん?」
電話の主が友美だとわかると、奈緒の母の声がすましたものから、フランクなそれに変わる。
何度も奈緒の家に遊びに行っているから彼女とも仲良しなのだ。
「あの、数学の宿題してて、わからない問題があったから、奈緒に教えてもらいたくて」
「あら、そうなの」
一瞬の間があってから、奈緒の母はそう言った。
そんな彼女の反応に、ふと胸がざわついた。
いつもなら、ここで保留音が鳴ってすぐに奈緒が出るはずなのに。
一瞬だけ押し黙った奈緒の母の反応に、知らずと心臓の鼓動が速まっていくのだった。