一瞬の違和感-2
「あんたが怒られたら、それだけ授業が遅れるでしょ。それ、すごい迷惑なの」
あくまで嫌々という体(てい)でノートを渡しているのに、飛坂は気にもしないで嬉しそうにそれを受け取る。
そして、満面の笑みで
「ありがとな、相馬」
と、お礼を言うのだった。
その屈託のない笑顔は、太陽のようにキラキラ眩しかった。
小さな頃から大好きな野球を続けている飛坂は、いずれ甲子園に行くと言う、大きな夢を持っていて。
勉強は苦手だけど、明るくて夢に向かってまっすぐな飛坂は、クラスでも人気者だ。
その笑顔のまんま、太陽みたいな存在感。
友美のような地味子にも分け隔てなく話しかけてくれる、いい奴である。
そう、友美のようにきっと裏の顔なんてない、いい奴なのだ。
◇
放課後。
部活がない友美は、黙々と帰り支度を始めていた。
いや、部活がないというのは語弊である。
正確に言えば、友美は美術部に所属はしている。
ただ、活動は週2、集まっては適当に落書きして帰るだけで、帰宅部同然なのだ。
「奈緒、帰ろ」
そして、奈緒も同じ美術部。
部活に時間を割くより、勉強していた方がよっぽど有効だと言う彼女とは、友美と本当に気が合った。
だから、下校はいつも友美と奈緒は一緒。
奈緒が野々村と付き合ったと知った時は、もう一緒に帰れなくなると思ったこともあった。
でも、そこは純情カップルの奈緒と野々村だ。
一緒に帰るのは、お互い照れがあるようで、それは未だ実行されていない。
以前はよく見た、奈緒と野々村が会話をしている所(もっとも、会話というより喧嘩だったけど)。
今はそんな光景を見ることもないから、本当に二人は付き合っているのかとすら思えてくる。
だけど。
「うん、帰ろう!」
嬉しそうに自分に駆け寄ってくる奈緒を見て、やっぱり可愛くなったと友美は思う。
それだけじゃない、無邪気な笑顔の中に時折、妙な色気が出てきた奈緒の変化を友美はうっすら感じていて、その度に脳裏に浮かぶのは、やはり野々村の顔であった。