「秋男は死なない」-4
「私には彼氏がいるので、田淵さんの気持ちには答えられません」
当たり前だ。こんなに可愛い子に彼氏がいないわけがない。
僕は何も言えなかった。
涙をこらえた。
涙を流したらかっこわるい。
だって、美香ちゃんの前では強い男でいたいから。
美香ちゃんの思い出のなかで僕は強くて、いさぎよい男でいたいから。
泣かない、泣かない。
次に言葉を発したら僕は絶対に涙まで出てしまうから。
口を真一文字にきゅっと結んだ。
泣くな、
男ならここで泣くな
僕だってプライドがある。
僕が泣いたら美香ちゃんは不安になる。
愛した女を僕は絶対に不安にさせない。
僕は死なない、もう死ぬなんて言わない。
泣くな。
僕はまだ笑ってさよなら出来るほどの大人じゃない。
だけど、涙は流さない。
意地でも流さない。
絶対に絶対に絶対に。
無言で美香ちゃんを見送った。
美香ちゃんがいなくなってから、僕は泣いた。
好きになってよかった。
告白できてよかった。
美香ちゃんのおかげで僕は勇気がもてたのだ。
ふられてもなお、美香ちゃんは、僕の人生の光そのものだ。
帰り道、コンビニに寄る。
アイスを買って求人情報誌をとった。
無料でとった求人情報誌に履歴書がついていたから、履歴書は買わなかった。
昨日、遺書を書いた黒のボールペンで、今日は履歴書を埋めた。
明日バイトをやめて就職活動をすると言おう。今日はよく寝れそうな気がした。