「秋男は死なない」-3
「私…これ、読んでしまったんです………休憩室に落ちていて、名前も書いていなかったので」
美香ちゃんはおずおずと僕に手紙を渡しました。僕が書いた遺書でした。
僕はもう、何も考えられませんでした。
「田淵さん、私が何かしましたか?分からないけれど、ご迷惑をおかけしたようで…本当にごめんなさいっ!!言って下さればこれから気を付けます!!だからお願いです!死なないでください」
美香ちゃんは僕に頭を下げました。僕は自分が何気なく書いた遺書のせいでこんなにも美香ちゃんを傷つけてしまった、と自分が情けなくなったのです。
でも同時に、僕の遺書にこんなにも悩んでくれた美香ちゃんを好きで本当によかったと思いました。
今なら言える。心から言える。
僕はゆっくり深呼吸をした。
「美香ちゃん、違うんです。僕の話を聞いてください」
美香ちゃんは頭を上げ、僕の目を見つめる。僕も美香ちゃんの目を見つめた。
「今日、僕は美香ちゃんに告白する気でいました。」
「でも、どこかでムリだって思っていたので遺書を書いてふられたら死ぬ覚悟でいました。死ぬ気でいれば、何も怖くないぞって思ったから。」
美香ちゃんは、僕の話を真剣に聞いてくれた。
僕の声は震えていない。
「好きです。ずっと好きです。付き合ってください」
いつもテンパってばかりの僕だから、この言葉はゆっくり言うと決めていた。
一つ一つの言葉を噛み締めながら、思いをつたえた。
悔いはなかった。
「…そう、だったんですか。」
しばらくの沈黙の後、美香ちゃんがつぶやく。
「ありがとうございます」
彼女が笑った。
彼女の笑顔が好きだ。
「私、すごく田淵さんに思われてたんですね」
僕の言葉を、美香ちゃんは受け取ってくれたんだと思う。
でも美香ちゃんが悲しそうな顔になる。
「ごめんなさい、田淵さんが私を思ってくれているように、私にも大切な人がいます。」
美香ちゃんは、優しい子だ。好きになってよかった。本当に、美香ちゃんに出会えてよかった。