企み-1
「なぁ、武史。
おまえ好みの隣の奥さん、昨日の夜、やったのかなぁ」
「ああ、やってる。……間違いないな」
「どうしてわかるんだ?」
「簡単なことさ」
そんな近所の奥さんを出汁に卑猥な会話を朝から交わしているのは、大学2年の武史とその相手は同じ大学の2年生の幹哉だった。
ふたりとも“新美写真研究会”に属しており、仲が良かった。
“新美写真研究会”とは名ばかりで、メンバーはこの二人しかいなかった。活動と言えるものは、若い人妻をたらし込んで、グラビア写真を撮っては写真集を作製し、それをネットで販売するという、どうしようもないものだった。
真面目に大学へも行かず、講義はギリギリの最低の出席時間で通過するという情けないふたりだった。
つい先ほども、武史の担任の澤口敦子先生から出席を促す電話がきたところだった。
「武史君?
何しているの?……えっ?
“社会心理学”の講義の出席はあと3時間でアウトよ。
ねぇ、聞いてるの?……えっ?
聞いてるんだった返事くらいしなさいよ、えっ?
もう1回休んだら、お父さんに連絡するからね?
いい?わかった?」
敦子の声を楽しむかのように聞いていた武史は、ようやく返事をした。
「わかっていますよ、先生!
先生の顔が見えないのが、とても残念。……だって、先生の僕に注意するときの顔がとても色っぽいんだもの。
ねぇ、こんど先生の写真集作ろうと思ってるんだ。先生も賛成してたよね、僕たちの活動!
先生のオッパイってさ、Fサイズはあるよね。
熟しきった女の身体は、やっぱり最高だよね。
今ね、……若い娘の写真集よりも熟した女、しかも人妻の写真集が売れるんだよ。
それもさ、若い男の子にだよ!
反対にさ、中年の独身の親父どもには、若い娘の、ほらっ、なんとか46だか、48だかって、ああいうのが良いみたい!
世の中おかしいよね、先生もそう思うじゃない?」
「バカ言ってないで、さっさと間に合うように来なさい!
良いこと!……えっ?
わかった?」
「わかったからさ、先生の写真、撮らせてよ。
こんどの日曜なんか……
あれっ、切られちゃった」
時どき、幹哉は武史の家を訪れて時間を潰していた。今日も隣の奥さんに異常なまでの関心を示す武史をからかう目的で訪ねてきたのだ。
武史は、心の底から熟女に興味があった。それも人妻に限られていた。
今までに出した写真集は4巻だったが、どれもそれなりに売れていた。
目隠しラインを入れないのはもちろん、すべて顔出しだった。
しかも、秘部にはモザイクは入れていなかった。直接写らないような構図だったり、様々な工夫がされていた。
例えば、股間を通った光の影を壁に映した場面があった。秘唇の凹凸のシルエットがハッキリ見えるように女性の脚を開閉したり、クリトリスの勃起がわかるように光のラインを工夫した。光源の色を変え、影の色に変化を持たせたりもしていた。
また、透明な亀甲状のモザイクガラスを通して写した場面もあった。亀甲部分のブロックが大きかったので、そのひとつひとつのガラスを通して小さく秘部がたくさん見えた。
あるいは、歯科用ギプスで秘部を型どりしたものに現代アート的な色彩を施して壁掛けオブジェにしたもののそばに、女性の顔がくるように佇ませたりと、毎回工夫が見られた。
それが、人気を呼んで、売り上げを伸ばすと共に、続巻の発刊希望が多く寄せられていた。