企み-3
「わかった。……じゃあ……。
まず、昨日のことだ。……旦那が二か月ぶりに帰ってきたんだ。
それは昨日の昼、家の前で旦那と挨拶したから間違いない」
「なるほど……。
でも、それだけでかい?」
「まぁ、聞けよ。
次に、あの奥さんは、外で見かけるときは、ほとんどいつもパンツ姿なんだ。
家の中ではスカートを穿いているのに、外に出るときは、決まって地味なパンツ姿なんだ。
それが、昨日は珍しく朝からスカートを穿いて外に出ていた」
「それって、どういう意味なんだ。
それに、第一。……家の中でスカート穿いてるってのは、どうしてわかるんだ?」
「知りたい?」
「ああ」
「まず、反対を考えよう。……外出時にパンツを穿く理由は、簡単さ」
「なんだよ?」
「貞淑な女に見せるためさ。
ガッチリとガードを固めて、自分はだれからもナンパされないぞ、という意気込みを見せるのさ。地味なパンツ穿いて、うつむき加減で早足で歩いてればね。
でも、パンツ姿で、男に声をかけられないようにしているということは、……極力おしゃれをしないということを意味することだ。
それでは、……女として寂しいだろう。
だから、家の中では自分のためにおしゃれするのさ。おしゃれと言えばパンツよりスカートさ」
「そんなものかな」
「幹哉は、女心が全くわかっていないな?
今までも、何回か庭に出ていたり、ベランダに立っている姿を見たことがあるんだけれど、すべてスカートだった。
それも、パンティが見えそうなくらいの超ミニだったり、派手な巻きスカートだったり……。
本当は、それを外で見せて、皆からチヤホヤされたいというのが本音だと思うよ」
「ふうん。……なぁんだ、意外とつまらないんだな」
「ああ、そうか。……もしかして、何か期待していたんだな。
じゃぁ、ええっと、……パートに出る時間は、シフトの関係で日によって違うんだけれど9時には家を出るんだ。帰りは4時頃には家にいる日が多いようだけどね。
隣の家には小学生の娘がいるから、まだ小さいからなるべく早く仕事から帰ってくるみたい。
かなり前のことなんだけど、……午後の2時頃だったかな、……回覧板を届けたことがあったんだ。
インターホンを押したんだけど、なかなか声が返ってこなかったんだ。
昼寝でもしてるのかな、と思ったとき、結構低い声で、ボソッと返事が返ってきた。
そして、玄関のドアを少し開けて回覧板を受け取った時に、奥さんの顔を見たら、小鼻が真っ赤になっていた。眼も潤んでいて、髪もほつれていた。そして、何よりも声がかすれていたんだ。
奥さんは、挨拶もそこそこに、回覧板を受け取って、そそくさとドアを閉めたんだ。
そのとき、パッと思ったんだ。
してたんだ、ひとりでって……。
残念なことに家の中の匂いまではわからなかったけど、ベージュの無地のスカートの裾が、Vの字に黒くシミになっているのがチラッと見えたんだ。
たぶん、ソファに深く座って、スカートをまくり上げて、両膝をソファにのせて、大胆にMの字に開いてやってたんだろうな。
黒いシミは、たぶん奥さんの吐き出した愛液が垂れて付いたんだと思った。
その姿と、さっさとドアを閉めた様子から察すると、たぶん逝く直前だったんだと思う」
「どうしてわかるんだ?」
「逝った直後なら、もっとふやけてだらしない顔になってるさ。
開いた小鼻は、直ぐにはすぼまないし、唇も歪んでる。
そして、吐く息からもあそこの匂いがするもの」
「早く、俺を追い返して、続きがしたかったんだろうな」
「ほんとうかな?……想像だろう」
「本当さ。絶対間違いない」
「まぁ、いいさ、そう言うことにして……。
旦那とやったということは?」
「ああっ、それはね。
パンツだと股間部が擦れるじゃないか。
久々の旦那の帰宅だぞ。
期待して、夜まで待てずに愛液ダラダラだったらどうなると思う。パンティの中はヌルヌルだぞ。
そうすると、穿いているパンツの尻の外にまで滲みてきちゃうだろ」
「まぁ、濡れればそうなるかも……」
「あのな、女っていうのはね。
あれを期待してるときに、旦那以外でも、ちょっと見の良いイケメンを見たり、タイプの男と目線が合ったりしただけで、ジュンと濡れるんだ。俺らがいい女を見たとき、ピンと勃っちゃうのと同じさ。
だから、それを恐れてスカートなんだ」
「それは、ちょっと……。違うんじゃないか?」
「じゃあ、これはどうだ。自信がある。
あの奥さんは、毎朝玄関の掃除をするんだ。
日曜日でも雨の日でもするのに、今日はしていなかった」
「今朝は見なかった、と言うことだな」
「いや、見なくてもわかるんだ。毎朝水を撒くから、玄関からすぐ外の門まで水で濡れているから。決まって同じパターンなんでわかるんだ。今日も水を撒いたなって……」
「それが今日はなかった。……で、ほかには?」