第1話 29番日誌@-1
〜 29番の日常 〜
―― 4月○日 ――
合宿、入学式、そして寮生活がスタートした。
最初の1週間は、思い出しても冷や汗が滲むくらい、信じられないくらい辛かった。
部活紹介のあと、私が入部した(というか、強制的に入部させられた)のは『バスケ部』だった。
始業式を済ませ、教室に戻ってから『クラス役員』を決めた。 いわゆる生徒会にクラス単位で協力するメンバーだ。 それから、色んな『クラス係』を決めた。 決めるのは2号教官だ。 私たちに発言権があるわけもなく。
私は『日誌係』に決まった。 その日の時間割や授業内容、欠席、早退、遅刻者名(もっとも番号でしかないけれど)、一日の感想などアレコレ記録する係だ。 2号教官は『日誌係』を言いつけるにあたって、『何を書いても構いません。 書いた内容で不利益にするつもりはありませんから、遠慮せず素の自分が思ったことを文章にしなさい』といった。 同時に『誰かに媚びる内容を書いてはいけません。 その時は補習室で反省させます』ともいった。
滅茶苦茶だ。 私が書いた内容が媚びてるかどうかなんて、2号教官に分かる訳ない。 教官の一存でどうにでもなるのは諦められる。 だけど、媚びているっていう適当な理由で、本当は媚びてないのに、自分せいで補習室に連れていかれるなんて理不尽すぎる。
だったら、私にだって考えがある。
一寸の虫にも五分の魂っていうし、私にだって五分か六分くらいの意地はある。
もともと、幼年学校時代もずっと日記を書いてきた。 飾らないで、媚びないで、ありのままに自分の気持ちをかくのが日記だ。 自分に正直になるのは苦手じゃない。 寧ろ、私が唯一、他の人より上手に出来ることじゃないだろうか?
だから、教官に言われた通りにしようと思う。
媚びたりなんてするもんか。 どうせ、媚びようと思ってもどうすればいいかよくわかんないし、補習室に連れていかれたとき、自分に言い訳もできないし、いいコトなんてなさそうだし。 媚びぬ、引かぬ、顧みぬ……って、昔の偉い人もいってたしね。
……というわけで、早速『日誌』を書いています。 終わりのHRで教官に提出しなくちゃいけないから、あんまり書く時間はないけど、空白を残しちゃいけない気がするから、出来るだけたくさん詰めて書いてみた。 これが『日誌係』になった私の、最初の日誌だ。
あとで誰かが読むんだろうか? ちょっと気になる。 クラスのみんなが読んだりすることも、可能性はあると思う。 あとは、少なくとも2号教官は読むんだろうな。 あ、『読む』よりは『読まれる』の方がいいのかな? でも、わざとらしい敬語なんて使わないもんね。 素で書けっていうんだから、日誌に敬語なんて使いたくない。 この書き方で補習室に連れていかれるなら、もう私にはどうしようもない。 とにかく、私を『日誌係』に指名したなら、私はこんな風な文章を書く生徒です。
気に入らないなら、今のうちに他の係に代えてください。 どうぞよろしくお願いします。
―― 4月○日 ――
授業が始まって2週間が経った。 最初はビックリの連続だったし、弄り過ぎてずっとアソコが痛かった。(日誌なんだから、毎回チツマンコなんて書きたくないので、私は幼年学校時代の言葉遣いで書くつもりです。 だから、おまんこのことは『アソコ』って書くし、オケツのことは『おしり』って書くつもりです。 気分次第じゃ『オマンコ』って書くこともありますよ。 元々そんなに上品な方じゃないんです。 構いませんよね? おまんこを『チツマンコ』以外の表現でしゃべってはいけないっていうのは聞きましたけど、『チツマンコ』と書かなくちゃ、なんて聞いてませんし……)
今では、自分でも変に思うくらい、驚くことが少なくなった。 授業内容は大抵想像を超えているんだけど、まあこんなもんかって、心のどこかで予想してるからだと思う。 驚くといえば、或る意味、こんな風に適応している自分自身に私は一番驚いてます。
1時間目、数学。 計算練習はとってもハード。 でも頭を使ってる実感が楽しい。
2時間目、国語。 延々官能小説を朗読した。
3時間目、書道。 やっと筆を挿入できた。 (前回はひたすら自慰をしただけでした)
4時間目、社会。 古代史の授業は、授業中に自慰する必要がないので嬉しいです。
5〜7限、体育。 第2グラウンドにでて、ストレッチと体力つくりをした。
今日、学園に入園してから初めてしたこと。
昼休みに、お喋りをした。
お喋りの相手は、2番さん。 スラッとしてて、実技もいつも一生懸命で、頭もよくて、美人。 クラスの中ですごく目立ってる人だ。 向こうから話しかけてきてくれて、嬉しかった。 話したことといえば、教科のことや、体育のチーム分けのこととか。 あとは、ええっと、寮の先輩のことを聞かれたかな。 なんでも私と同室の【B29番】先輩は、2番さんに学園のことを色々教えてくれているらしい。 どんな先輩かって聞かれたから、優しくて、頼りになる先輩だよ、と答えておいた。
お喋りなんて怒られるかもしれないから、小声で話して、すぐに切り上げた。 だから、話した時間なんて全然短い間だったけど――とってもとっても楽しかった。