前章(三)-3
子供の首をすげ替えて、跡継ぎを得ようとする──。貴子にすれば、正に“晴天の霹靂”な出来事で有り、彼女の心はあっと言う間に、烈火の如き憤怒に支配された。
「此の屋敷から、貴喜の居場所が永遠に失われるかも知れない一大事を、母親で妻である私に何の断りも無しに決めようなどと、絶対に認めてはいけない事ですわ!」と、思い付く限りの暴言を吐き散らす。
何とか阻止出来ないかと、あらゆる手段を練ってみるのだが、今や、貴子の実家である五味家は、伝衛門からの援助無しでは子爵の家柄を維持出来ない程、逼迫しており、その結果、以前は夫に対して直言していた彼女の立場は、既に無くしていた。
とどのつまり、彼女に出来る事と言えば、香山と言う下男の慰み者に自分を貶める事で、何れ、この家に顕れるであろう禍の種を蒔く位しか、残されて無かったのである。
此れ迄、どうにか正気で居続けられた貴子だったが、伝一郎と言う若き肉体に嬲(なぶ)られ、醜態を晒した事によって、再び壊れてしまった。
正気を失うと、彼女は伝一郎との同衾(どうきん)の度に、肌を合わせているのは義子に非ず、最愛の息子、貴喜なのだと信ずるに至った。
通常なら“畜生道”として忌み嫌う実子との目交わいさえも、そんな素振りも見せず、寧ろ、歓喜の嬉声を挙げて受け入れた──。貴子は遂に、気違いの仲間と為ったのである。
貴喜の上に馬乗りに為り、自ら、蜜の滴る女陰(ほと)を大きく広げると、逞しく成長した実子の淫茎を蜜壷から女門へと一気に銜(くわ)え込み、狂った様に腰を振り出した。
一部とは言え、再び、実子と一つに繋がった事実は、気違いへと変貌した貴子の“情欲の焔”を激しく舞い上げるには充分だった。夢中で腰を上下させ、貴喜の淫茎を抜き差しする度に、幾度となく打ち寄せる快感に彼女は身悶え、狂おしい嬉声を奏でた。
貴子の嬉声が、一段と大きく為った。肉襞(ひだ)の締め付けが増し、女門は既に口を広げている。貴喜は短く呻いた後、実母の胎内に熱い迸りを放出した。
子種が幾度となく女門へと雪崩れ込んで行く。貴子は恍惚の表情を浮かべ、我が子の上に覆い被さると、背中へと腕を回し、きつく縋(しが)み付いた──。実子との情交に、此の上無い昂りと快感を得た貴子。既に、身も心も畜生道に溺れていた。
「では、義母さま。また……」
淫靡なる時を経て、伝一郎は夜明け近くに貴子の部屋を後にした。
自室へと戻る道すがら、此れ迄の経過を思い返す内に、喜色満面と為った。
──此れで貴子は、僕の言う事に逆らえ無い。後は、香山を脅して二人を引き離してしまえば目的達成と為り、父さまも安心して事業に打ち込める筈だ。
先の算段を思い、伝一郎は一人、ほくそ笑む──。事、此処に至るまで紆余曲折と遇ったが、その後は首尾よく事が運んでいるとして、安堵を強めた。
ところが、それは大いなる誤りで有って、後々、伝一郎の身に禍が及ぶ元凶に為ろうとは、未だ、知る由も無かった。