まさかの反対勢力〜another〜-1
ある国に、賛否両論の大統領がいた。
支持率は支持派と非支持派がほぼ互角という、何とも難しい状態だった。
大統領は何度も命を狙われ、その度に肝を潰していた。
そんなある日。
「大統領！」
「どうした」
一人の側近が慌てて大統領のもとへやって来た。
「ある科学者が大変な発明をしました！」
「ふむふむ…」
「なんでも、寿命・病気以外の生命の危機なら、どんな事でも回避できるそうです！」
「なんと！すぐにその科学者を呼べ！」
「畏まりました！」
こうして数時間後、その科学者が大統領のもとへ現れた。
「なんでも、素晴らしい発明をしと聞いたのだが」
「はい、大統領。事故から必ず回避できるチップを完成させました」
三十くらいの青年は得意げに説明を始めた。
「このチップを体内に埋め込んでいる限り、事故からの安全が保証できます」
「そのチップでか？」
青年の手に乗った黒い塊は、五ミリ角の正方形の形をしていた。
「はい。絶対です」
「………よし、さっそく埋め込んでくれ」
「畏まりました」
その後、すぐにチップを埋め込む手術が行われ、それは成功した。
「これで私は安全なわけだな」
「さようでございます」
「しかし、あんな小さな物で命が保証されるとは…」
大統領は、チップの埋め込まれた左腕を感心の目で見つめた。
「では、私はこれで」
科学者は、誰にも悟られない様にニヤリと口許を歪めた。
このことは国中に報道され、このチップを欲しいと言う声が多くなってきた。
一般人にはとても手のでない額ではあるが、資産家や国の官僚などが大枚を提示した。
金に目の眩んだ例の科学者は、やけくそで希望するものにチップを埋め込んだ。
そんな中、大統領が他国の大統領との食事会への移動の途中に射撃された。
車の窓ガラスに空いた弾丸の穴は、左右のドアに空いていた。
穴の位置的に、それは大統領の頭に当たっていた。
しかし、大統領の姿は瞬時に消えたという。
この事は国中に知れ渡ったが、誰も大統領がどこにいるかわからなかった。
それどころか、チップを埋めた者は次々に姿を消したという。
もちろん、事故にあいかけたり、人に狙われたりした瞬間にだが…。
それから数十年の月日が流れた。
例の科学者がテレビを見ていると、信じられないニュースが飛び込んで来た。
ある国の船が急遽臨時でとめた無人島に、何と人がいたというのだ。
しかもそれは、数十年前に姿を消した大統領を始め、チップを埋め込んで姿を消した者たちが全員保護されたという。
科学者は愕然とした。
彼としては、無人島で大統領を死に追いやりたかったのだが、多数の人間が同じ所へ飛んでしまったせいで、思惑は失敗に終わったのだ。
「周知の知恵か…」
科学者は半笑いを浮かべながら、その場に崩れ落ちた。