〈崩壊〉-4
『何処に行くつもりかな?首輪が掴まれてるっていうのに……』
「あ…あッ!?やあたん逃げてッ!お願い逃げてえッ!!」
『コラッ!!なんでお兄ちゃんが教えたのと違うコト言うんだ?このッ…このバカあ!』
「むおッ!ぐッ…ぐぷうッ!」
髪を引っ張られたまま頬を打たれた亜季の眼球には、揉みくちゃにされながらひっくり返され、そして髪と首輪を掴まれながら無理やり立たされる彩子が映っていた。
『亜季ッ!こうなったのは全部亜季のせいだからな!言う事聞かないで我儘するから、やあたんが巻き添え喰って痛い目に遭ったんだ!』
「ッ〜〜〜〜!!!」
長髪男は復習するように、亜季に『選択肢は無い』と突きつけた。
『早くさっき教えた言葉を言え……一秒待たせるたびに、あの怖いオジサンに、やあたんのお腹を一発ずつ殴って貰うからな…?』
明確な一本道を示された亜季は、ボロボロと涙を溢しながら許しを乞う視線を彩子へと向けた……暗黒の未来がハッキリと見えている彩子の瞳は死相さえ滲み、互いに助け合う事すら出来ない無力さにうちひしがれたままだ……。
「うっぐ……や…やあたん…生け贄に…え……ズズッ…選んでくれて……お、お兄ちゃん……ありがとう……」
『はあ?ちっとも分からないよ、そんなんじゃ』
嗚咽まじりに発せられた言葉は、ほとんど聞き取れるようなものではなかった。
これでは命令に従ったとはとても言えず、長髪男はもう一度感謝の言葉を述べろと命じた。
「やあたんを…ヒック!い、生け贄に……」
『「愛お姉ちゃんの代わりに」が抜けてるじゃないか?やり直しだ』
「あ、愛お姉ちゃんの代わりに…えぐ…や、やあたん…ズズズ…生け贄……」
『声が震えてて分かんないんだよ!次にハッキリ言えなきゃ愛お姉ちゃんも姦っちまうぞ?』
「う…ズズッ…愛お姉ちゃんの代わりに、やあたんを生け贄に選ん…んぐッ…でくれて……お兄…お兄ちゃん…ありがとうございますぅ!うッ…うわあぁぁあんッ!!」
自分を圧し殺し、半ば自棄っぱちとも取れる叫び声で、亜季は彩子を地獄へと追いやる台詞を放った……もう亜季は彩子を見る事も出来ず、ただただ瞼を固く閉じて泣き崩れるだけだ……。
『へえ〜、愛お姉ちゃんさえ助かれば、やあたんはどうなってもイイんだ?プッククク……亜季ちゃんて酷い娘なんだねえ?』
「ッ…………!!!」
脅迫を用いて無理矢理に言わされた台詞を、長髪男はまるで亜季が自ら言い放ったかのように嘲り、冷たく笑った。
それは彩子に対する亜季の純粋な想いを蔑み、踏み躙る行為に等しい。