3-1
さっきまでの和やかなムードから一転、ネオン街を手を繋いで歩く俺達。
俺も結衣さんも俯いたままだから、まるで悪い事でもしそうな雰囲気だ。
悪い事、というかイケナイ事ではあるかもしれない。
だから俺達は、きっと言葉を発しないまま歩いているのだと思う。
「もっと知りたい」という事が、「イケナイ事をすること」であるというのを知ってるから、さっきまでのように無邪気にはしゃぐことが場違いであるとお互い思っていたのかもしれない。
ネオン街から一本逸れた道に入ると、そこはラブホ街になっていて、急に空気が変わるのがわかる。
すれ違うのは、酔っ払いや若者達の集団から打って変わり、カップルだらけ。
若い男女。金持ちそうな男とやたら化粧の濃い女。結構年のいってそうな中年カップル。
きっと、こいつらは全てヤラシイ事をしてきたのだろう、そう思うと勝手に生唾がこみ上げてきた。
それにしても、この辺りは駅からそう離れていないのに、ましてや賑やかなネオン街のすぐ隣にあるというのに、なんて静かなんだろう。
それなのに、建ち並ぶホテルの外観だけはやたらギラついて。
それでいて、アスファルトの隅にはビールの空き缶やら、カラスが食い散らかした生ゴミの残骸、果ては電柱のたもとの誰かのゲロまであって。
まるでこの空間は欲望の掃き溜めだ。
そして、俺達はそんな掃き溜めでこれから獣となって快楽を貪り合うのだ。
どんどん汗ばんでくる手。早まる鼓動。やたら渇く喉。
童貞の俺には、セックスは愛を確かめ合う神聖な行為だと思っていたけど、こんなギラギラした欲まみれの空間にいると、愛なんて関係ない、ただ互いが気持ちよくなればそれでオーケーみたいな、刹那的な気持ちになってくる。
そんな雰囲気に呑まれた今の俺は、とにかくセックスしたくて仕方がなくて。
欲に塗れた手は、結衣さんの柔らかな手をさらに力を込めて握った。