3-9
前田をストーカーしていた女が結衣さんで、俺が一生懸命連絡を取りたがっていた女も結衣さん。
そして、今ニュースに出てたホテルで殺人を犯した女も……結衣さん。
結衣さんが、俺の電話に出ない理由がわかったような気がした。
恐らく、前田にはっきりと「ナンパなんかに本気になるな」と罵られ、絶望に打ちひしがれた彼女はナンパという行為を憎むようになった。
だから、ナンパに引っ掛かった自分が馬鹿をみたように、ナンパで男を引っ掛けて馬鹿を見せて、殺していたんではないだろうか。
ただ、俺だけは違った。
俺は結衣さんを本気で好きになってしまったから、大切にしたいからと、いくらでもセックスできる状況なのに手を出さなかった。
それが、きっと殺すか殺さないかのボーダーラインだったんだ。
寸での所で助かったんだと思うと、腰が抜けたように脱力してしまう。
それでも、よかったなんて到底思えない後味の悪さが残った。
恐らく俺は何度も彼女に電話を掛けていたから、警察にも色々聞かれるかもしれない。
そして、 前田もまた。
定まらない視線でひたすらに『違う……違う……』とうわ言を繰り返す奴に視線を映す。
きっと、自分が傷つけてしまったことが、結衣さんの凶行のきっかけになってしまったことを責め立てているのだろう。
確かに前田の行動や言葉はひどいものだったかもしれないが、付き合えないなら結衣さんはそれをちゃんと受け止めなくてはいけない。
「前田、お前は悪くないよ。だって、ハッキリ付き合わないって言ったんだろ」
結衣さんの立場を思うと、前田が全く悪いとは言えないけど、こうして動転しているなら、「お前は悪くない」と言うしかない。
すると、前田は目からぶわっと涙を溢れさせたかと思うと、ベッドの上で蹲り、そして、気が狂ったように吠え出した。
「ご、ごめんなさい! ごめんなさいぃぃ!!」
「落ち着け、前田!!」
いつものチャラい様子なんてまるで無くて、それはまるで何かに取り憑かれたようで、俺は必死に奴を落ち着かせようと、何度も何度も前田の名前を叫び続けた。