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確かに気持ちはよくわかる。
せっかく女の子の方から勇気を出したってのに、土壇場で断られて。
もしかして、女のプライドを傷付けられたと思っているのかもしれない。
でも、それは誤解だよ、結衣さん。
俺はゆっくりベッドから身体を起こすと、もう一度結衣さんの前にスッと立ちはだかった。
「違う、その逆」
バツの悪い笑みを向けると、彼女の鋭い瞳が一瞬和らいだ。
「結衣さんはすごく魅力的だし、正直、今も抱きたいって思ってる」
「曽根さん、だったら……」
何か反論したげな結衣さんの言葉を遮り、静かに首を横に振った。
「好きになったからこそ、抱けない……ってかすぐには抱いちゃいけない、そう思うんだ」
「え?」
「俺、結衣さんのこと好きだから、大事にしたいんだ」
あー、こんな歯の浮くようなセリフを言っちまうなんて、ドン引きされてたりして。
自分の顔が真っ赤になっているのを感じながら、耳の後ろ辺りをボリボリ掻きながらこっそり彼女の様子を伺うと、結衣さんの顔も俺並に赤くなっていた。
不思議と、照れているその様子が俺を逆に冷静にさせてくれた。
「俺ね、ナンパとか逆ナンって昔から抵抗があったんだ。よく知らない異性とその日のうちにヤッちゃうみたいな。そういうノリが俺の中では絶対ありえないって思ってた」
「曽根さんっ、あたし……そんなつもり……」
「うん、分かってる。結衣さんはそういう軽いノリで俺に声をかけるような娘じゃないってのは、今日一日一緒に過ごして、伝わってるから」
なぜか涙目になっている結衣さんの頬に、恐る恐る触れてみると驚くほど熱い。
そして、俺が彼女に触れた瞬間、その潤んだ瞳から大粒の涙が流れ落ちた。
出会いは女の子の方からのナンパって周りの目には映るかもしれない。
でも、お互いが本気で好きになれたなら、出会いの形なんて関係ないんだと。
「だから俺達は、まだ焦らなくてもいいよね?」
いろんな所にいっぱい出かけて、たくさん美味しいもの食べたりなんかして。
そうやってお互いの距離をゆっくり縮めて、少しずつ触れ合っていくような、そんな恋に発展できたら、俺はナンパという形でも充分人に誇れると思う。