3-3
「結衣さん……」
ゆっくり彼女の顔に近づいてキスをしようとするけれど。
…………。
……あれ、なんだ? 身体が動かねえ。
キスをしようと首を傾けた所で、急に身体が金縛りにあったかのように動けなくなったのだ。
閉じていた瞳をパチリと開けて瞬きするけれど、目の前の結衣さんは瞳を閉じてスタンバイOK状態。
なのに、なんで身体が動かないの、俺。
途端に頭から流れてくるのは、今日出会ったばかりのいろんな結衣さんの姿。
最初に声をかけたときの、緊張した様子の結衣さん。
お茶をした時、俺がつい自分を卑下したような言い方をしてしまったら、叱りながらもそれを否定してくれた結衣さん。
時間が経つにつれて笑顔が多くなった結衣さん。
そして、今俺に抱かれようとしている結衣さん。
そんな彼女に対して、俺はもっともっと知りたいって強く思ってる。
だから、俺は――。
「……曽根さん?」
一向に先に進まない俺を不審に思ったのか、彼女がゆっくり目を開いた。
それは、とてもキラキラ輝いてとてもきれいな瞳。
「結衣さん、ごめん。やっぱり、俺はできない」
彼女の肩を掴んでいた手をスルリと下ろした俺は、そのまま力なくベッドに倒れ込んだ。
今日一日歩き回った疲れが一気に押し寄せてきたような気がして、クラクラする。
でもそれは、なんというか快い疲労感であった。
うん、やっぱり俺の選択はきっと間違っていない。
どことなく晴れ晴れとした俺とは対象的に、ふと彼女を見ると、こちらを睨んで、
「どうしてですか……? あたしに魅力がないから……」
と、唇を震わせていた。