3-11
「あー、俺さ。朝から何も食べてないからすっげ腹減ってんだよ。なんかこう、ガッツリしたものが食いたくねぇ?」
思いっきり伸びをしながら立ち上がる。
なるべくいつも通りに。
昼飯食べて、だりーとボヤきながら講義に出る。そう、これが俺達の日常なんだ。
さっきのニュースは、どこかの誰かがどこかの誰かを殺した、他人事のニュースなんだ。
釈然としない気持ちに蓋をしながら、前田の方を見やるけど、当の前田は未だベッドから降りようともせず、ジッと一点を見つめたまま。
「前田……?」
眉を顰めながら声を掛けると、奴はゆらり、と顔を上げた。
思わず息を呑んでしまう。
ニュースを見た時よりもさらに青ざめた顔、虚ろな瞳、こけてしまったようにみえる頬。
人間、こんな短時間でゲッソリやつれるものなのかと目を疑いたくなるほど、前田は別人のように見えた。
それでも、安堵のせいでわずかに笑みが戻っているけど、正直それが薄気味悪く見える。
俺がゴクリと生唾を飲み込んだそのタイミングを見計らったように、奴は震える唇でかすれた声を絞り出し、俺にこう問いかけた。
「……曽根。オレ、HIVキャリアなんだけど……、それをあの女に話したらつきまとわなくなったんだ……。オレは、オレ……は、悪くない……よな……?」
〜end〜