2-6
「ど、どうしたの……?」
恐る恐る訊ねると、結衣さんはそのぷっくりとした下唇をキュッと噛んでいた。
そうやって、しばし言葉を選んでいた様子だったけど、やがてその下唇が噛み締めていた前歯の拘束を逃れ、プルンと元の形状に戻ったと思ったら、
「あたし、『友達』になれてよかったって言いましたけど……。あたし……もっと曽根さんのこと、知りたい」
と、さらに掴んだ手に力を込めて来た。
彼女の手からは僅かながら震えが伝わってきて、相当勇気を出しての発言なんだと容易に想像がついた。
だけど、自分に自信のない俺は、やっぱり彼女に問いかける。
「結衣さん、それってどういう意味……」
「……きっと、曽根さんが考えてる内容で、合っていると思います」
俺を正面から捉えるその瞳はキラキラ潤んでいて、ついさっきまで無邪気にはしゃぐ彼女のソレとは、まるで毛色が違って見えた。
女の子はこういう顔もするんだ、と変に感心してしまうくらい、結衣さんの表情には艶めかしさが表れていた。
勝手に喉が生唾を飲み込む。
視線は少し下がって胸元へ。
やや大きめに開いたカットソーから覗く鎖骨と、自分には決して無い、その下の膨らみ。
意外と胸はありそうかも、なんて意識すると、急に本能が理性を俺の中から追い出し始めた。
そして、心から湧き上がる、不埒で純粋な気持ち。
結衣さんを抱いてみたいーー。
ナンパで知り合った女とその日の内によくヤレるな、なんて、前田に呆れていたはずの俺が、逆ナンで数時間前に出会ったばかりの女の子を抱きたいと思っている。
行為自体は本能的なものだけど、付随する気持ちに疾しい所は何もない。
なんて、すげえ言い訳がましいな、俺。
今まで自分を理性的な人間だとずっと思っていたけれど、それをこうも簡単に変えてしまうなんて、恐るべし恋の魔法。
それほど、彼女と一つになりたい気持ちは強くなっていった。
「あの……曽根さんはやっぱりイヤ、ですか……?」
一歩先の関係に進みたいと、正直に言った結衣さんが本当に愛おしくなってきて、ついに、俺は。
「……お店、出ようか」
と、まるでアイコンタクトをするように、彼女に頷いてみせた。