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「あー、お腹いっぱい!!」
結衣さんが、ナイフとフォークをお皿の端に寄せた。
「一日中歩き回ったからなー」
一足先に食事を終えていた俺は、そんな彼女にニッコリ微笑んでからおもむろに窓の外に目をやると、街はいつの間にかネオンが煌めく夜の顔。
結衣さんと出逢ってからまだほんの数時間程度なのに、こんなにも楽しい時間を過ごせた自分に、内心驚きを隠せなかった。
何せ、今日はとにかくあちこち歩き回った。
最初に結衣さんと行ったファーストフード店を出てからは、公園を散歩したり、駅ビルで雑貨屋さんを覗いたり、ダーツをして遊んだり。
そして、締めがこのファミレスで夕飯、というところまで来たのだから。
結局、俺は今日の講義をサボッてしまったわけだけど、後悔はしていない。
「……どうしたの?」
「いや、何でもない」
キョトンとあどけない表情で小首を傾げる結衣さんを見て、俺は静かに首を横に振る。
今ならハッキリ言える。講義以上の価値が、結衣さんと過ごす時間にはあったのだ、と。
女の子とろくに話もできなかった俺が、結衣さんとこんな充実した時間を過ごせたなんて、前田が知ったら腰を抜かすかもしれない。
それほど結衣さんは、明るくて優しくて、俺を元気にしてくれる女の子だった。
見た目こそ、若い娘特有のキャピキャピした女の子だし、出会いは逆ナンなんだけど、話していくうちにどんどん彼女の印象はよくなっていった。
実は、浅く広い付き合いが苦手で、友達とは狭く深い付き合いしかしてこなかったこと。
アルバイトは、地元の小さな書店の店員を高校の頃から続けていること。
オシャレなカフェよりも俺達が今食事をしているようなファミレスの方が好きなこと。
結構自分と似通った所が多いと、親近感は一気に湧いてくる。
代わりに、当初抱いていた警戒心は、水で溶いた絵の具のように、どんどん薄くなっていった。