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「ご、ごめんね。気を悪くさせちゃって」
「いえ、あたしこそ大きな声を出してしまってすいませんでした」
恐る恐る上げた顔が、まだあどけなく見えて、それはまるでイタズラが見つかってしまった子供のよう。
「いや、いいよいいよ。俺も、その、女の子と二人で話すなんてことなかったから、変に疑り深くなってて」
すると、少し怯えたような彼女の顔が、キョトンと目を丸くしている。
「え……、じゃあ、今、カノジョさんはいないんですか!?」
「うん。今ってか、ずっといない」
すると今度は、パアッと顔に光が射したみたいに明るくなる。
女の子ってクルクル表情が変わるもんだなぁ。
彼女のそんな表情の一つ一つに、自ずとニコニコしてしまう。
「よかった! それじゃ、もしよかったらあたしとお友達になってくれませんか!?」
自分の頬がカッと熱くなるのがわかる。
きっと、今の俺はとんでもなくだらしない顔になってるかも。
「う、うん。俺でよかったら」
なんとか言えたそのセリフに、また、彼女がプウと頬を膨らませる。
「もう、そんな卑下した言い方止めて下さいってば」
「ご、ごめん……俺、女の子と二人で話すなんてことなかったから……ってアレ?」
なんとなくデジャブになったこの展開。
それに彼女も気付いたのか、思わず目が合ってそのまま固まる。
そして、次の瞬間、俺達は盛大に笑い出した。
「やだあ、面白いですね……えーと……」
「曽根。曽根将也(そねまさや)って言うんだ」
「曽根さん、か。あたしは……」
「宮下結衣(みやしたゆい)さんでしょう?」
「え、何で知ってるんですか!?」
「だって、さっき学生証見せてくれたじゃん」
「あ、そうだった」
一度笑い出したら、なかなか治らなくなって、俺達は暫くの間、笑い続けた。
笑い過ぎて、涙目になりながらお互いなんとなく見つめ合う内に、いつの間にか、薄れつつあった警戒心もすっかりなくなったようだ。
恋なんて、ほんの一瞬のタイミングで訪れるもの。
どこかで聞いた言葉が、無意識のうちに俺の頭の中を何度もリフレインしていた。