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「曽根〜、聞いてくれよぉ」
いつものファーストフード店。駅より少し離れたここは、いつ来ても空いている。
しかも平日の午前10時なんて、本当にここは都会なのかって疑わしいほどの開店休業状態。
そんなガラガラの店内の、窓際のテーブル席に座っていた俺達は、いつもの如く安いセットメニューで長時間居座り続けながら、与太話をしていた。
うんざりした顔でそう切り出した前田の話の内容は、大体見当はついている。
「いいよ、話さなくて」
にべもなく言い放った俺は、長時間空気に晒されてクタッとしてしまったポテトを一つつまんでは窓を眺める。
うん、今日は実にいい天気だ。
「んな冷たいこと言うなよ〜、こないだの女はマジハズレでかなり参ってるんだから」
言われてみれば、前田の顔にいつもの活気がない。寝不足だろうか。
とは言っても、イケメンはくたびれていてもイケメンだ。
小さな顔にクールな切れ長の瞳は相変わらず健在。
そんな前田のレベルの高い顔を若干羨ましく思いながら、ヤツの結構長いまつ毛をぼんやり眺めていた。
◇
前田の言う「こないだの女」は、ヤツがナンパした女のこと。
だけど、ナンパが趣味のようなものである前田なので、その「こないだの女」が俺の思い浮かべている女のどれを指すのかは皆目見当がつかない。
ユリなのか、ミキなのか、アイなのかそれとも……まあ、とにかく「こないだの女」ってことだそうだ。
「その女がさあ、一度ヤッただけなのに、もうカノジョヅラしてきてすげえしつこいんだよ」
「そんなの着拒したらいいじゃん」
そんなこともわからないなんて、コイツはアホか。
呆れたように頬杖ついて前田を見ると、ヤツは小さくため息を吐きながら首を静かに横に振るのだった。