コンピューターの女-8
8.
ヒューム・ハイウェイから、ハンドルを左に切り、キャンベラの街に入ったのは午後六時を回っていた。
翌日、啓介の運転する車はシドニーを発って、首都のキャンベラに向かった。
だいぶ日が延びて、太陽はユーカリの木立に陰を落としながら、まだ西の空に懸かっている。
街に入ると、直ぐ、ころあいのモーテルに車を寄せた。
シャワーを済ますころには、すっかり辺りは夕闇に包まれた。
ショッピングセンターでベトナム料理店を見つけた。そこで日本のきし麺に似た牛肉うどんを軽く腹に収めると、街外れのアインスリー山に向かった。
日の暮れた登山道には、すれ違う車もない。セカンド・ギアで軽い唸り音を上げながら、車は左右の木立にヘッドライトを投げかけながら進む。
まもなく頂上に達し、車寄せに乗り入れる。
標高八四二メートルの山頂からは、正面遥かにキャッスルヒルの連邦議会議事堂を望む。
星空を反射しているかのように、キラキラと灯火のまたたくキャンベラの街が、眼下一望に広がる。
車を降りると、星明りの中を啓介は、藤子の手を引いて展望台の手すりに導く。
底知れぬ漆黒の空を、ミルク色の大河がうねる。天の川だ。
啓介は藤子を手すりに掴まらせると、肩を抱いた。
藤子のうなじが、遥か天空から注ぐ天の川のかすかな光に映えて、白く浮き上がる。
「藤子さん、きれいだよ」
「本当にきれいなお星様ね」
「星もきれいだけれど、君はもっときれいだよ」
「暗いから、きれいに見えるんでしょう」
藤子は、啓介の言葉に照れて、思わず減らず口をたたいてしまったが、胸には暖かいものが満ちた。
啓介は、白く浮き上がるうなじに、唇を寄せた。
「うっ」
藤子は軽く呻いて肩を震わせると、振り向いて啓介の唇を求めた。
濡れた唇の中で、舌が絡み合った。唾が溢れ、啓介は舌ごと吸い込むと、喉に落とした。
啓介は、藤子を両手で手すりに掴まらせると、後ろに回った。脇の下から差し込んだ啓介の指先で、乳首が勃起した。
「啓介さん、あたし怖いわ」
「なにが」
「感じるのが早くなって、啓介さんに触られるだけで、欲しくなってしまうの」
「僕も欲しい」
「このままいったら、のべつ欲しくなって、止め処がなくなってしまう」