コンピューターの女-22
22.
夢のような啓介との4日間の道行き。
夫に事故で先立たれ、ひたすら鰻料理屋を切り盛りしてきた藤子には、思いもかけなかった天からのご褒美だった。
仕事を終え、一人ベッドに横になると、思い出されるのは啓介との睦みごと。なまじ覚えた味は、一人寝の夜には切なすぎた。
そんなある日、啓介からのメールが入った。
<元気?寂しいよ、どうしている?一寸お願いがあるんだけれど。実は両親の墓が浅草の本願寺近くの寺にあって、もうじき父の7回忌。藤子さんの店で、法事の後のお清めやってくれないかなあ?近い身内だけで15人程なんだけれど、できますか?>
<大丈夫。近くにお寺が多いので、法事には好く使っていただいています。お寺さんとの連絡もこちらでしてあげますよ。 詳細を知らせてください。今度は東京で会えるんですね、嬉しい>
寺の住職は藤子も顔見知りの坊さん。つつがなく準備が済んで、当日を迎えた。
藤子の両親は店の奥の住まいに昔から住んでおり、藤子は結婚と同時に吾妻橋を越えたところのマンションに移り、夫が死んだ後も一人で暮らしていた。藤子は啓介に直ぐにでも来て貰いたかったが、親戚の手前もあるので法事が住むまではホテルに泊って貰うことにした。
来席者の殆どは、親戚といっても法事でしか会わない。次に会うのは何時の日か?それぞれに、啓介の母の好きだった兎屋の最中の引き出物を手に、別れていった。
店の片付けのある藤子を残して、啓介は一足先に藤子のマンションに帰った。
吾妻橋を墨田区側に渡り、スカイツリーに向かった通りの左手にマンションはあった。
ベッドの上に、男物の浴衣が置いてある。 藤子に教わった通りに、風呂のスイッチをいれた。
窓の外は、公園の街灯に黒い影となって浮かぶ緑樹越しに、隅田川が流れている。