第四章 漂着した恋人-31
何が何だかわからないものの直感的に危険を察知した子供達が散った砂場で、愛梨は足を取られて転んだ。スカートが捲れ、脚が下着が見えそうなまで覗いた。
その手弱かな下肢にまみえると、尿道にあの射精の予兆が走った。
もうだめだ。愛梨、耐えてくれ。デカい亀頭さえ入りさえすれば、あとは比較的楽なはずだ。仕方がないんだ。事態を進めるためには。その代わり、至福の快楽がお前を待っている。必ず、必ず導いてやる。それが愛しい人が性奴隷と堕すなどという悲劇の、せめてもの救いだ。
「愛梨っ!」
愛梨の体を裏返すと、スカートをめくって脚の間に体を入れた。
「誰かっ! 早く警察っ! 何してるのこの人っ、いやぁっ!」
「おい!! やめろぉっ」
母親の叫び。走ってくる制止の声。
聞こえてはいても指は愛梨のショーツを引き、久々に対面できた神秘の場所へ哮り狂う亀頭を押し付けた。
愛梨にせめて何か言ってやりたい。そう思って様々な言葉を探したが、
「愛梨っ、愛してるっ……」
言うならばそれしかなかった。そして一気に奥まで貫いた。
「んぎゃああっ!!」
出会って以来聞いたことのない、良家の娘とは思えぬ絶叫。遂に到達することができた愛梨の神殿で、長い間我慢をし続けていた男茎が早速ビクビクと爆発準備を始めた。
「い、いったいっ! だれかぁ、助けてぇっ! いったぁいっ!」
激流はもうそこまで迫っていた。しかしできることなら、たった一度、ほんの僅かの幅でもいいから律動して、男茎を愛しい襞へ擦り付けたく、、少し腰を引いた。
内壁が激しい拒絶の痙攣を起こし、根元に鮮血が見えた。――何だこれは?
この事実は何だ?
何の事態の進展だ?
混乱する中でもせり上がってくる射精は、側面からタックルしてきた野球コーチのせいで地面に強く体を打ち付けられても制止できず、砂に塗れながら始まった。だが尿道を抜けていく粘液には勢いはなく、微痙攣とともにトプトプと漏れ出るだけだった。
……。
どれくらいの時間が経ったのだろう。虚ろな世界に愛梨を探す――、――いた。主婦たちに抱きしめられている。
「いやぁ……、は、初めてなのに……、わ、私の初めてが……いやあぁっ!」
間欠的にパニックに陥る愛梨を、主婦たちが懸命に宥めていた。
(なんだ……? なんで初めてなんだ)
あの麗しい初体験の記憶は? ……どんな記憶だったか? どう麗しかったか?
「警察、呼んでもらいましたよ」
「ありがとうございます。っのやろっ……」
野球コーチは警察が来るまで、しっかりと抑え続けるつもりのようだ。通報を伝えた犬連れの老人が、足元に落ちていた財布を拾い上げ、
「土橋哲郎、というらしいですな。このっ、人間のクズがっ……」
免許で氏名を確かめると、身動きできない体を、老人とは思えない力でステッキで殴打してきた。
絶叫を聞き、痛みを体に感じていると、疑問は更に薄らいでいく――そもそも、いったい何に必死になって、何をしていたんだっけ。
「……こ、こんな……」
「あ?」
何か言おうとすると、コーチの腕の締め上げが強まった。
「こんなことしちゃったら、何年、刑務所入んなきゃいけないっすかねえ……」
かつて、容姿がよく、学歴もよく、将来は約束されている男を知っていた。だが彼は、それ相応の身装や所作、そして言動に常に気を配っていなければならなかった。たとえ恋人が相手ですら、恋情を促し、満足させるために様々気を使って。
だが何の長所もない、周囲の方から避けてもらえるこの――、この俺は。
気楽だ。ここ最近の間に、何度の享楽を得ただろう。この醜貌は生得の幸福なのだ。
こんなことなら、愛梨はもっともっと、じっくりモノにすれば良かった。軽率なる失敗の罪を償い終えたら、この希望に満ちた人生を仕切り直そう。
< 完 >