第四章 漂着した恋人-18
バストから男茎が引き抜かれる。そして土橋は、M字のままウットリとなっている涼子の隣に横座りになり、頬に浴びた我慢汁を指で拭うと、チュッと頬にキスをした。
(あんっ……)
帰宅時の俊介の出迎えと同じだった。
隣にいるのは俊介ではない。だが、自分は今から偽りの息子とセックスをするのだ。もう、せずにはいられないのだ。
(ご……、ごめんね。俊くん)
いっとき取り戻した愛しい息子の面影。謝って済む話ではないのはよく分かっていたが、涙に潤む瞳を、俊介とは似つかぬ醜悪な子供に向けると、
「し、して……、ママので……」
涼子は世間の親なら我が子には絶対聞かせられない言葉を吐いた。
土橋の手が開いた脚の中心に及び、これだけ濡らしながらずっと放置されて、今にも果汁を飛ばしそうなほど熟れきったショーツの果肉をツンと突っついてきた。
「ああっ……!」
ショーツのクロッチにジュワッと湿感が広がる。この量から察するに蜜ではない。潮液が溢れているに違いなかった。
「ママのオマンコ、オチンチンでイかせて欲しいんだね? お潮もいっぱい、いーっぱい噴かせて欲しい、そうでしょ?」
その言葉に居ても立ってもいられなくなり、
「そうっ! ママのオマンコ犯して、いっぱいお潮噴かせて、いっぱい……、いっぱいイカせてっ!!」
最後は艶めかしく濁った声で叫んだ。
土橋がドロドロになったクロッチを掴み、グイッと横に引く。
ドアの開く音が聞こえたが、それが意味することはよく考えられなかった。この横座りの位置から、この子はどうやってママを犯してくれるんだろう。そちらの方が気になっていた。
激しく駆ける足音が聞こえて、涼子が目を向けると、嬉し涙に睫毛が曇る中を、白い塊がこちらへと迫ってきていた。
――やがて、徐々に晴れる視界とともに、白い塊は人間の姿になっていった。
「い、郁夫くんっ!?」
涼子が叫んだ時には、郁夫がM字の正面に到着していた。
「ああっ、涼子さんっ。い、い、いいよっ、ぼ、僕が、い、イカせてあげるぅっ……!」
連れて行かれた公園で、保彦は郁夫を眺めた。
(しかしこの白ブタ、涼子と血が繋がってるとは思えないな)
白いTシャツなど着ているものだから頬が余計に赤く見えた。フシュー、と小さな音を聞かせて怨みの息を漏らしている。
「あのさ、何かな? 俺は色々忙しいんだけど」
一向に用件を伝えようとしない郁夫に痺れを切らした保彦は、救いの手を伸ばした。
「あ、ああ、あんた、り、り、涼子さんの、なな、なんなんだよ」
え? なんだって?
吃音が多すぎて保彦はもう一度頭の中で音韻を咀嚼してやらなければ、彼の言いたいことを理解できなかった。
また金が少なくなった。汐里からせしめるには、長い時間をかけて凌辱してやらなければならず、面倒だったから涼子から金を引き出すことにした。
連絡を受けた時、涼子は怯えた口調だった。息子を保育園に迎えにいかなければならない、時間がない、と頻りに伝えてくる。この女も凌辱されると思ったのだろう。だが保彦は涼子も犯すつもりは全くなかった。汐里のように頑として引こうとしない面倒くさい女ではなく、家では母親であるのだからスムーズに対処するであろう涼子にしたのだ。
「こ、これでいいでしょ?」
しかし、玄関先で金を差し出した涼子の顔は、金の無心にきた主を軽蔑するわけでもなく、保育園で待つ息子を慮って焦っているわけでもなかった。
土橋の男茎がまた襲いかかってくるかもしれない期待と、それが裏切られた深い失望が浮かんでいた。
まさか子供を待たせてまで犯してほしいのか?
「なんだ? 涼子、おまえ――」
ヤル気はないが、揶揄することで心地よくなろうとして矢先、背後のドアに鍵が差し込まれる音がした。
一気に涼子が青ざめる。
「は、早くっ!」
袖をつかみ、手早くリビングへと引き入れた。保彦も、来訪者が誰であれ姿を見られるのは得策ではない、と、隠れ先で気配を消して玄関の方を窺った。
「あ、郁夫くん、……ま、まだ帰ってないの、俊介」
「そ、そうなんだね。だ、誰か来てるの?」
脱ぎ捨てられた革靴が転がっているのを見咎めたようだ。
「あ、ええ、そうなの。だ、だから……」
涼子の背中が怯えていた。
「涼子さん」
面白い。保彦はリスクは承知で廊下に出た。しかもファーストネームで呼びかけてやる。
色白で肥満体の若い男が、土橋を驚いた顔で見ていた。
「や、ご来客、お取込み中すみません。お手洗いお借りしてよろしいですか」
「……え、ええ、どうぞ……」
玄関先の白ブタが、目に見えて惑っているのが可笑しかった。
用を済ませた帰り道、待ち伏せしていた郁夫から突然声を掛けられた時、大体の用件には気づいていた。
話をするために入った公園では、ベンチでは老人が何をするわけでもなく、ボーっと夜空を眺めてタバコを吸っているだけだった。
「何って……、まあ、何というか。付き合ってる、って言えばいいのかな?」