第三章 制裁されたハーフモデル-9
「そっか。そりゃ大変だな」
須賀の態度は気に入らなかったが、二人やりとりが気になり、
「お知り合いですか?」
と問いかけてみた。
「は? ……ああ、同期ですよ。俺ら」
須賀が言うと、汐里は少し眉を顰めて俯いた。なんだ? そう思ったのも束の間、顔を上げて、
「そうなんです」
と言う。
保彦はポケットの中に手を入れ、小さなリモコンスイッチのダイヤルを捻った。
「うっ」
汐里は脇に抱えていた手帳やタブレットを落として膝を折った。振動音が漏れるかと思ったが聞こえてこない。さぞかし淫らな肉壁で締め付けて防音に努めているのだろう。
「おい、大丈夫か?」
「あ、え……、うん、ちょっと立眩み……」
汐里が膝を折って床に落ちた荷物を拾おうとすると、須賀も身を屈めて手伝い始めた。その足元にペットボトルが転がっていて、須賀に手渡されると、汐里は青ざめて奪い取るように受け取った。
「何か顔色も悪いぜ?」
「あ、うん、大丈夫。……っ!」
更にダイヤルを捻ってやると、汐里はタブレットを抱きしめて耐える。「あ、ありがとう……。ね、……っ! ねえ……、……っ! す、須賀は行かなくていいの?」
「あ、うん。俺も打ち合わせなんだ。行くわ」
向かいかけて足を止め、「おい、本当にちょっと様子がおかしいぜ? 顔色もなんか……」
「だから大丈夫だってっ!」
最後は不機嫌そうな声を放って汐里が項垂れると、須賀は怪訝な顔で廊下を去っていった。その背中が消えると漸くスイッチを切る。汐里はやっと収まった下腹部の振動から息を整え、
「……ど、どうすんのよっ。ぜ、絶対何か気づかれたっ」
ヒソヒソ声だが、久しぶりに見るような気がする麗しい恨み顔で保彦を糾弾してきた。
「何かって……なに? 汐里が会社でローター仕込んでること?」
「しぃっ……!」
声量を落さずに言う保彦に、汐里が焦って胸をドンと叩いた。「……こんな、彼氏の前だからって、恥ずかしいこと……」
「何だって?」
保彦は驚き、更に大きな声を上げて汐里を戸惑わせた。
「……し、知らなかったの? 私、てっきり……」
涼子の家を訪れた時、保彦は興奮を隠し切れなかった。
特別会議室で犯してやった時は、ビジネススタイルで凛とした出で立ちだった涼子は、打って変わって膝を覆うコットンスカートとドレープの利いたシフォントップスというゆったりとしたスタイルだった。化粧も控えめにしている。
まさしく「母親」の姿だった。腕白に走り回る息子を御するためには緩い服装である必要があるのだろう。そうやって機能性を意識すれば、いわゆる生活臭という形で疲れと衰えを感じさせるものだが、涼子はさすがの麗しさを保っていた。
だが保彦が興奮させているのは、別の理由だった。
(……絶対何かある)
汐里が終業するまで待つ間に、保彦は涼子にメールを送った。
涼子を犯したことで、レポートの恨みを晴らし、一旦は唾飲は下がった。今日この体に渦巻く淫鬱を収めるために――しかも会社に会いに行ったのに不在だったからなおさら、この美しく壮年の女も陵辱したくなった。
メールの文字からは涼子の怯えが伝わってきた。子供のいる自宅に土橋がやってこようというのだから当然だった。親戚の家に預けて出て行くから、どこかのホテルで、と拒まれると、是非とも自宅で嬲ってやりたくなった。
(えっ)
渋る涼子から、宣誓動画の存在を盾に住所を聞き出して驚いた。
涼子のマンションは保彦の自宅からそう離れてはいなかった。地図で確認すると最寄駅は西武線ではなく都営線のようだが、距離にして一キロも離れていない。汐里と赴いてみれば、これまで暮らしてきてあまり用の無い地域だから訪れたことはなかったが、保彦の部屋からでも充分に歩ける距離だった。
これは偶然だろうか?
具体的に何が、と問われると返答に窮する。だが、まったくの無関係ではないのだ。
土橋を探し回るよりも、むしろ淫欲に任せて卑劣な行為に及んでいたほうが、事態を進展させていたのでは、とさえ思えてきた。
保彦は眉間に皺を寄せて黙りこくっている涼子の前で、まだ靴も脱いでいないのにズボンを下ろし始めた。
「ちょ、ちょっと!」
熱を冷ますために寝ている息子が気がかりで、背後を頻りに気にする涼子の前で先走りの汁にヌラついている男茎を差し出すと、
「安心して? 夕方、汐里で発射しそうになったけど……」
亀頭を指さして目線を導く。「涼子のために、洗わずにそのまんまで来てあげたから」
涼子は目の前に屹立した男茎を見てすぐ、手のひらで口を覆って目を見開いた。汐里に洗濯させた清潔な下着を履いたところで、包茎が治るわけではない。包皮を捲って勃起した亀頭の首周りには、汐里では拭わなかった恥垢がみっしりと溜まっていた。
職場でのイメージとガラリと変え、息子に対する無償の愛情を体現するかのような姿は、土橋の体にこれからの陵辱を望外に楽しみにさせ、男茎の先からピュウッと透明の飛沫が飛んだ。
「あっ……! 汚さないでっ。……と、とにかく上がって」