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なりすました姦辱
【ファンタジー 官能小説】

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第一章 脅迫されたOL-4

 突如、手の中に握っていたスマホの画面が着信に切り替って激しく震えた。表示は『小田のクソ』。
 誰だ?
 そんな問いは無意味だった。自分の物ではない携帯にかけてくる人間のことを詮索しても仕方がない。――それよりも。
「……もしもし」
 この状況を打開する何らかの手がかりが掴めるのではないかと思い、保彦は深呼吸をしてから、使い慣れた機種とは異なる操作に戸惑いつつ電話に出た。
「よう、おはよう」
 中年と思しき男の声が聞こえてくる。「今、大丈夫か?」
「あ、はぁ……」
 大丈夫ではないし、相手が誰とも知れないのだから、曖昧に答えるしかない。
「ん? 外か? いま」周囲の雑音が電話口から聞こえたのだろう、「……ああ、もしかして病院に行くところだったか?」
「……い、いえ……」
「なんだ、違うのか?」
 咎めるように小田の声が低くなったが、すぐに元の声調に戻され、「まぁ、たまには気分転換で外を出歩くのもいいんだろうけどな。とはいっても、君は休職中の身なんだ。外を出歩いているのを会社の人間に見られてみろ、遊んでいなくてもいろいろ陰口を言われるかもしれない。ほどほどにな」
「はい……」
「電話したのは、だ。休職中の社員には、上司として定期的に連絡を取って状況を聞かなくっちゃならなくてね。どうだい? 調子は」
「……え、えっと」
 何と言えばいい? 「ま、その……、あまり変わりません」
 思いつくままに当たり障りのない返事をしたが、小田は特に不審に思うこともなく、
「医者は何て?」
 と問うてきた。
「……」
 どうやら病気に罹っているらしい。身に憶えのない体だし、不調は感じられない。答えようがない。
「ん? 毎週通ってるんだろ? 心療内科」
 困って黙っていると、小田が勝手に答えを教えてくれた。
「え、……ええ、少しこのまま様子を見ようと言っています」
「薬は?」
「か、変わらず飲んでいます」
 そうか、と言って小田は少し黙った。保彦はその間に、この男から何らか情報を聞き出せないかと頭を巡らせていたが、一体何から訊けば良いのか、どうやって訊けば良いのか判断がつけられずにいた。
「……ま、医者の言うことをよく聞いて、一日でも早く治すことだな」
 保彦のことを……、いや、この体の主のことを慮ったというよりは、何となく職務だから仕方がないというような、心が篭っておらず、職場に復帰させたいなど真剣には考えていない言いぶりだった。
「……わかりました」
「これからも半月に一度くらいは連絡したいがいいか?」
「はい……」
「じゃ、また二週間後くらいに」
 電話を切るつもりのようだ。保彦は慌てて、
「あ、ちょっ……」
 と呼び止めた。
「ん?」
「え、えっと、あの……」
 僕は武藤保彦というのですが、私は誰ですか、何故ここにいるのですか。
 そう訊きたかったが、さすがにメンタルを患っている上に、そんなことを言ったら驚かれるだけでは済まされないだろう。
「……気になるか、君が休み始めてからのこと」
「え、はあ……、はい、やはり気になります」
 言い淀んでいると小田がまた勝手に会話を繋いでくれた。
「須賀くんは、君に対する『指導』が厳しすぎたと反省しているよ。俺からもこんこんと説教してやった」
「そ、そうなんですか」
「ただ……、医者でもない素人の俺が言っちゃいけないんだろうけどねぇ、須賀くんの気持ちも分かってやってくれよ。何せシニアアソシエイトになったばかりだ。はるかに歳上の部下に対しての距離感がつかめてなかったんだろ」
 カチ、カチという音。保彦もタバコを吸うから、ライターの音だと分かった。どうやら休職している部下に対するヒアリングの最中に喫煙所に入ったらしい。はるかに、という言葉は、全く部外者の保彦の耳にも嫌味に届いた。
「年下の男に感情的に扱われちゃ、病んじまうっていう君の言い分も分かるんだけどね。まあ何だ、今回の件はちょっとした行き違いさ」
 社内で何か人間関係のいざこざがあったのだろう。須賀という男は注意程度で済み、自分は休職したというわけだ。小田の話しぶりは明らかに須賀の肩を持っているように思える。どうやらこの男の社内の境遇は、決して過ごしやすいものではないようだ。
 まぁ、この見た目じゃな。
 文字通り他人事だ。何の所縁もない保彦ですら、いや、全く先入観がないからこそ、この男のウダツの上がらなさは、混乱した中ですら容易に想像できた。
 それにしても須賀との事件と、保彦がこの男に憑依した事態に関連性が見出せない。他に解決の糸口を聞き出せないものかと思ったが、
「ま、そういうことだから、会社は大丈夫だ。君は治療に専念してくれ」
 いい加減切りたくなったのらしい、小田はこれ以上呼び止めることを許さない口調で、「しかし、なんだか今日は話し方がハキハキしてるな。やはり須賀くんのことだけじゃない、君は疲れていたんだよ。せいぜい、リフレッシュしてくれ」


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