真と偽の夜想曲.-1
自分はなぜ此処にいるのだろうか…
気付けば此処に足が向かっていた。
神を信じているわけではない、自分とは全く縁のない場所だと思っている。
古びた教会
夕日の射し込むステンドグラス
規則正しく列を成す長椅子
3列目…左から二番目の椅子
一人の女性だろうか。あまり詳しくはないが、修道服を着ていないところを見ると修道女ではないようだ。
〜こんばんは。
なぜ話しかけたのかは、自分でも分からない
「ええ。」
〜はじめまして…なのかな、どうもあなたと会うのは初めてじゃない気がするよ
「そう…でも、あなたが此処にいて私も此処にいる。その事実は曲がらないわ。たとえ本当に以前あなたと私が逢ったことがあったとしても、現在(いま)お互いが此処に存在(いる)する事実は変わらない。」
〜…そうなの、かな? …もうひとつ、なんでボクは此処にい
るのかな?って君に聞いても解からないよね。
なんで、こんなことを聞いたのだろうか…
自分がついさっきまでなにをしていたのか覚えていない、気付けば足がここに向かっていた。この人なら何か知っているかもしれない、不思議とそんな気がした。
「…あなたが此処に来た理由なんて、私にはわからない。」
そらそうだ。
「だけども、あなたにも分からないということはあなたの表面とは別の意思がもたらしたこと…真であり偽でもある深層心理の作用、それはあなたがココロの奥で望んだこと。」
ココロの奥…自分であり表面の自分ではない自分…
〜それはボクがココロの奥では此処に来ることを望んだって事?
「…そうね、あなたは此処に来ることを望んだ。」
・
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いつの間にか日は沈んでいた。
光が射し込まなくたったステンドグラス。そこに描かれたマリア像はどこか淋しげな顔をしていた…
ボクは彼女の反対側の長椅子…中央の通路を挟んだ反対側に座った。その椅子は旧いのだろう、かなりの埃を被っていた。
ボクは埃を叩いてから座った。
椅子はボクが座ると音を立てて軋んだ。