初めての・・・豹介とゆかりの場合-24
それから数日後、葵は塾が始まるわずかな時間の合間を縫って、
奈々子と塾近くのカフェに来ていた。
仕事が休みだった奈々子は快く葵の誘いに乗った。
「ごめんね、仕事休みの日にわざわざこんな場所に呼び出しちゃって。」
「全然平気。葵こそ勉強忙しいでしょ?私、我慢できるよ。
ちょっとくらい会えなくっても。」
「・・・俺が我慢できない。」
そう言われながら手を握られ、奈々子ははにかんだ。
彼女は照れ隠しするように、話題を変える。
「私、この辺始めてきたけどけっこう色んな店もあるんだね。
あ、あっちに居酒屋もある。今度来てみようかなぁ。」
葵は久しぶりに奈々子の表情を見て少し安心したようだった。
前に会った時、奈々子の様子が少しおかしかったからだ。
明らかに仕事で何か悩み事がありそうだったのに、
自分には相談してくれなかったのが少し寂しかった。
(俺って年下だから、やっぱり頼りにならないのかな・・・?
愚痴でもいいから言ってくれればいいのに。もっと彼女に甘えられたい・・・。)
そう思っていたのに、今日の表情はすっきりしていて、いつもの奈々子だった。
「奈々さ・・・悩み事はない?」
「え?大丈夫だよ〜。ちょっと色々あったけど、今は平気。」
「―――その色々が知りたかったな・・・。」
葵は呟くように言った。
奈々子は寂しそうな表情の葵にすぐ気がついて弁解する。
「あ・・えっと・・・ごめん。葵には言ってなかったんだけど・・・
ちょっと婦長に誤解されてね、意地悪されてたけどわかってくれたから、
今は全然大丈夫なんだ。
ほら、病院で働いていると色々あるから!それに私あの病院で働いて、もう長いし。
ずっと根に持ってちゃ働けないから。ね。だから心配しないで!!」