葵の父親-37
しかし婦長の発言で奈々子の足が再び止まる。
「そういう先生だって、仕事とプライベートを混同してません?」
「どういう意味だ?」
「私、知っているんですよ。移動してきたばかりの若いナースが夜勤の時、
部屋に来るようにこっそり言っていたじゃないですか?
彼女とよからぬ関係なんじゃないですか?!」
「若いナース・・・?あぁ、皆川さんの事かい?
あの日は彼女がここの入館証を落としたのを拾って部屋に置いてあったのを
取りに来てもらっただけだが?君の想像力は豊かだね。
僕は誰かを特別扱いすることはないよ。」
婦長は口をへの字にして黙った。
「とにかく新人いびりをしている暇があったら、
一人でも多くの患者が早く退院できるように協力してくれないか?
君はいつも患者に笑顔で対応してるじゃないか。
優しく頼れる婦長の君がいてくれて、僕達ドクターも救われているんだ。
これからもよろしく頼むよ。」
そう言われて、婦長はまるで少女の様な無邪気な嬉しそうな表情へと
みるみると変わっていった。
奈々子はドクターが振り返る前に、急いで休憩室から立ち去った。
(・・・怒鳴っていたの小田先生だったんだ。
私を助けてくれるために婦長に怒鳴り込んでくれたの?)