葵の父親-36
――状況が一転したのはその日の午後だった。
昼の休憩時間も休憩室には行きたくなかった。
内科のナースと会いたくないからだ。
食堂でコーヒーとサンドイッチを一切れ食べると、
奈々子は一人きりに慣れそうな屋上へと向かう。
今日は曇っているからそんなに人はいないはず。
休憩室に通りかかると、中から怒鳴り声が聞こえてきた。
どうしたんだろう?誰か喧嘩してるのかな。
そう思いながらこっそり覗きこむと、
再び白衣を着た男がドアの前に立ちはだかって声を荒げていた。
白衣って言う事はドクターか。誰か何かやらかして、怒られてるのかな?
そう考えて奈々子は再び歩き出そうとした時、ふと信じられない光景が目に入ってきた。
婦長に向かって誰か怒っている。いったい誰が・・・?
「君はこの仕事を一体何だと思っているんだ!」
婦長は目を見開いて驚いている表情をしている。
「人の命を何だと思っている。こんなくだらない事をして、恥ずかしくないのか?!」
奈々子は中の様子をもっとよく覗いてみると、
休憩室には婦長と特に仲のいい内科のナース2人と婦長と、
この怒っているドクターだけだった。
(何なんだろう・・・?こんなに怒りっぽいドクターなんていたっけ、
でも婦長が怒られるなんて珍しいことがあるもんだな。
でも私には関係ないか、もうここ辞めるって決めたもん。)