葵の父親-35
そんなある日、東海林が無邪気に奈々子に話しかけてきた。
「どうして昨日来れなかったんだよ〜?
歓迎会のつもりだったのにってみんな言ってたぞ!」
「・・・昨日?何かあったの?」
「は?何って、飲み会。」
「飲み会・・・?」
「まさか聞いてなかったのか?」
そんな事聞いていない。初耳だった。
東海林は焦ったように奈々子に言った。
「皆川の歓迎会しようって話になって、婦長が誘ったけど行けないって言われたって。
だから歓迎会は次の機会にしようって事になったんだけど。」
そう聞かされて、奈々子の目頭が熱くなってきた。
「・・・知らない。誘われてない。」
奈々子は東海林にそう言い残して、バタバタと走り出した。
涙がにじみ出る。
(もう限界かも・・・ここを辞めて他の職場探そう。)
下を見て走っていたので、奈々子は前を見ずに廊下で誰かとぶつかってしまった。
ぶつかったおでこを抑えながら、視界に入ったのは白い色だった。
どうやら背の高い白衣を着た人とぶつかってしまったようだと気がつく。
「廊下を走ったら危ないよ。」
落ち着いた声が奈々子の耳に響く。顔を上げるとそこにいたのは小田医師だった。
「すみません・・・」
涙をぬぐいながら、奈々子は再び歩き出し、トイレに駆け込んだ。
小田医師は驚いた顔で奈々子の様子を見つめていた。