葵の父親-31
部屋をノックするとすぐに返事があった。
扉を開けると、小田医師は疲れた顔で奈々子を迎え入れた。
「すまないね、せっかくの休憩時間なのに。」
「いえ、あの・・・聞きたいことって何でしょうか?」
小田医師は奈々子にソファに座る様に促した後、
淹れたてのドリップコーヒーを奈々子に差し出した。
「あ、いただきます。」
奈々子がコーヒーを受け取ると、小田医師も向かいのソファーに座った。
「単刀直入に聞くけど、葵から僕の事は何か聞いているかい?」
「え・・・・えぇっと・・・」
奈々子は戸惑った。葵に恨まれている事や、
不倫してたと聞かされていると本人に言えない。
奈々子のその様子から小田医師は察知したようで、彼女の返事を待たずに口を開いた。
「葵から何を聞いたかわからないけれど、君にお願いがあるんだ。
・・・これからも葵の傍にいてくれるかい?」
「はい。私はそのつもりです。」
「去年の夏ごろからかな、僕はあまり葵の傍にいられないけど、
家政婦から葵が明るくなったって聞いてね。
たぶん君と付き合いだした頃なんだろう?
僕は父親失格だから、皆川さん、君が葵を支えてやってくれないだろうか?
申し訳ないけど、君なら安心して葵を任せられそうだと直感したんだ。」
「・・・はい。」
奈々子は違和感で一杯だった。
(この人は本当は葵が心配なんだ。父親として役目を果たしたいけど、
息子に拒否されてやり場のない想いを仕事で解消している・・・みたいな?
我が子を憎い親なんていないよね・・・。
葵が考え直せば、もっと状況は良くなるのかな。
でも、そもそも本当に不倫何てしてたのかな?
それにあの葵の元家庭教師とも関係持っていたのは事実なのかな?)
小田医師は安心したように奈々子に微笑んだ。
その瞬間、その顔が葵にダブる。
やっぱりこの二人は親子なんだな、そう思った。