隠者-4
「おいおい、どうして行ってしまうんだ?
折角知り合ったんだ。俺はハヤトっていうんだ。
お前は?」
「ユウキだよ。なんだよ。俺とダチになりてえのか?」
「ボクン」
俺は軽く腹パンをかましてやった。
「ごほっ、急になんだよ」
「これでおあいこだ。飯でも食いにいかないか?
奢るぜ」
「本当か? 金持ってるのか」
「昼飯代くらいはな。 そのかわり、手軽なとこですませるぜ」
俺はこうして男女(おとこおんな)のユウキと友達になった。
ファストフード店で食べながら話をしている時、俺はもっとユウキのことを知りたいと思った。
どうして男の格好をしているのか? 心は完全に男なのか? だが身体を触ったら女として発情した。 その辺はどうなっているんだ? バイセクシャルなのか?
だがユウキの裸を見た時、あまりにも見事な女体だったので普通の女であってほしいと心から願った。
けれどもこの話題は本人に聞くわけにはいかない。
女の身体であることを知っていることは伏せておかなければならないからだ。
差し障りの無い話をしながら時間潰しをしていると、ふいに頭の中から声が聞こえた。
『催眠で隠者を呼び出せ』
声は中性的な年齢不詳の声だったが、それ以上待ってもそれっきりうんともすんとも言わなかった。
だから俺は謎のリクエストに答えることにした。
「ピーピング、ピーピング、ピーピング。隠者よ、出て来い」
すると、向かいに座っているユウキの隣に老人が現れた。
「おい、ハヤテ。な……なんだよ。どうして隣を見るんだ? 誰も座ってないだろう」
ユウキは俺の驚いた視線に気づいてうす気味悪がった。
もちろんユウキには見えないが、明らかに白髪の老人が座っている、顔は東洋系だが髪の毛や髭の生え方がレオナルド・ダヴィンチの自画像に似ていた。
『あんたが隠者か? 何か俺に用事か?』
俺は心の中でそう言った。勿論ユウキの方を向いたままだ。
『ユウキのことを知りたいようだから、教えるために現れた。
彼女はノンケの少女だ。ただ、男性に対する警戒心と好奇心が両方共強くてな、休日になると男の格好をしてボーイ・ウォッチングをすることにしてるのだ』
「おい、聞いているのは俺だぞ。 どうして黙りこくってしまうんだ、ハヤト」
「悪い、実は俺には秘密があるんだ。その……つまり、人には見えないものが見えるんだ」
「やめろ! その手の話は嫌いなんだ」
ユウキは肩をすぼめて顎を引き、胸の前に両腕を立てて引き寄せた。
これはどう見ても女の仕草だ。
「お前の隣にお爺さんが現れてな。多分お前の父方か母方の爺さんだと思うが『母方は生きているから、父方ってことにしておけ。また。面倒な設定を作ったな』うん、父方の祖父さんだそうだ。
その祖父さんが、この人に全てを打ち明けろと言ってる。ああ、この人と言いながら俺のことを指さしているから、俺にお前の秘密を言えってことだ」
「ダマされないぞ。ハヤト、お前はそうやって女の子を口説き落として厭らしいことをしてきたんだろう?」
「ああ、俺が霊能力者を語って、お前から秘密を聞き出そうとしているって疑っているのか?
男のお前の秘密くらい言ったってどうってことないだろう。
せいぜいエロ本を見ながらこっそりマスをかいてるとか、好きなアイドルが誰とかそんなとこだろう」
「じゃあ、聞くな。 誰がお前に秘密を言うもんか」
そこで、俺は隠者から高速で与えられた情報を開いてユウキに言った。
「祖父さんはヒロノブという名前で背の高いメガネをかけた人だぞ」
「うっ、当たっている。だけどそんなのはマグレ当たりかもしれない」
「海外勤務で長い間シンガポールに行っていたそうだ。それからお前を五才になるまで風呂に入れていたが、マラソンの最中に倒れて心不全で亡くなった」
「それも当たっている。えっ、本当に?」
「どうだ?これでも信じないか?」
「バンッ!」
ユウキは突然テーブルを叩いて立ち上がった。
「爺ちゃんがそんなこという訳ない。ハヤテ、お前とは絶交だ!」
ユウキはそのまま店から出て行った。
食べ残しをテーブルに残したままだ。
俺は勿体無いからそれもすっかり食べてから店を出た。
夜、一人部屋で眠りに就こうとした時、隠者が現れた。
『ユウキとセックスしたいのだろう? それなら催眠夢でそういう設定にするのが良い』
『随分、親切にするんだな。そうかそれなら本人に迷惑はかからない。
俺が勝手に夢を見るだけだから』
『ふふふふ、それはどうかな? まあ、楽しむんだな』
『何か意味深だな。それはともかく、夢まで催眠で見られるなんて好都合だな』
俺は早速催眠状態になって暗示を口にした。
「夢の中でユウキとセックスをする。それと、いつもオカズにしているアイドルのサミーとも三Pで交わりたい!ああ、それと夢はできるだけリアルにな」
俺は欲張って、そんなことを口にしていつしか眠りについた。