忘却の目覚+-2
翌日、千章は朝の駅のホームで恵利子に視線を走らせていた。
腰丈まである濡れ羽色の髪は艶を増し、今まで以上に美しくひかり輝いて見える。
いやっ、ひかり輝いているのは髪だけではなく、華奢な身体全体からも瑞々しい魅力が感じられる。
それでいて大きな瞳には女を感じさせる憂いが潜み、幼いはずの表情には大人の色香が垣間見える。
セーラー服上着胸元、Vラインからのぞく白く細い首筋の肌、濃紺のプリーツスカートから伸びる生脚さえ艶めいている。
決して届くことのない想い、初めて目にした時からセックスの対象としていた。
想いかえせば、いったい何度、恵利子を想い続けながら精を捧げ続けてきたのであろう。
狂わしいほど繰り返し自らを慰めながら、想いを募らせてきたのだ。
計画的なレイプにより固い処女の蕾を割り、弱みを握ると無理矢理割った蕾に男の精を注ぎ込み続けた。
そしてついに恵利子の喘ぎ声で己の鼓膜が震えた時、千章は無理矢理割った蕾にも関わらず、美しい花が咲いたように想えた。
ラブホテルのベットの上、騎乗位で括れた腰をくねらせる恵利子を知る千章にとって、目の前のセーラー服に身を包み楚々としている少女は別人のようにさえ思えた。
昨日のことなどまるで無かったことのように、恵利子は千章を無視しホームに入ってきた電車へとその姿を溶け込ませる。
しかし、それでも一瞬、恵利子が自分を意識する雰囲気を千章は感じていた。
「あっ、君、これ、落としましたよ」
恵利子が通う高校がある駅の改札を通り抜け、周囲を見計らい背後から千章は声を掛けた。
どうにも抑えられない衝動が、男を突き動かし始めていた。
男の手には滑稽にも、己のハンカチが手にされていた。
セーラー服の後姿が緊張し、恵利子の足取りが止まる。
(どんなに楚々としていても、私は君の秘密、悦びをしってしまったことを知っている)
千章の脳裏に、自分しか知らない恵利子の喘ぎ顔を浮かぶ。
足を止め、躊躇いながら恵利子は振り返り、千章へと歩み寄ってくる。
当然、笑顔はなく、頬を強張らせ固い表情である。
大きな瞳は、落ち着きなく周囲を見渡している。
「これ、君のじゃないかな?」
「こっ、困ります。次は来週、木曜の放課後…… 」
消え入りそうな、か細い声だ。
「誰かに…… 見られてしまいます」
震える声で続ける。
それでも、その場から立ち去ろうとはしない。
「すこしの時間でいいんだ」
周囲に配慮しながら、言葉少なに千章は想いを告げた。
「でも、困ります。これから学校が…… 」
千章は恵利子の返事を聞き終わることなく背を向けると、高校のある方向と反対の南口へと歩み始める。
振り返らずとも、恵利子の気配を感じ取りながら。
「こんなところ、誰かに見られたら」
押さえた声色で、恵利子が千章を非難する。
「でも、君の意志でついてきた」
千章は手際良くレンタカーを借りると、助手席に恵利子を同乗させていた。
それでもそれに費やした時間で、恵利子の遅刻は確定的となる。
「はああ…… 」
助手席の恵利子は、外の景色を眺めながら溜息を漏らす。
≪いつもお世話になっております。一年▼組の磯崎恵利子の父ですが、今朝娘が急に体調をわるくしまして。本日はお休みをいただきたく、連絡しました。はあ、はあ、それではそう言うことで、お願いします≫
千章は携帯に登録されていた番号に掛けると、さらりと恵利子の父親を演じ欠席連絡を入れる。
「!?」
あまりにも突拍子もない千章の行動に、恵利子は言葉を失っていた。
「そっ、そんな勝手に」
数秒の感覚を置いて、驚きの感情に言葉が追いつく。
「そう勝手に連絡した。覚えているかい、恵利子? 私が君を無理矢理犯し、処女奪った日の事を。あの日の朝も、私はこうやって君の通う高校に、父親のふりをして連絡したんだ」
悪びれることなく、告げる。
「それとこれがいったい、どうゆう関係が」
怒りと恥ずかしさを入り交えた表情で、恵利子は千章に目を向ける。
「解らないかい、恵利子? 私は君のためなら、どんなこと、どんな反社会的な行為、犯罪でもなんでも出来るし、するんだ。私がただ、女子高生なら誰でも構わず、レイプ、セックスを望んでいたかと思うかい?」
「…… 」
恵利子は顔を真っ赤にし俯いた。
いくら身体を重ねることを強いられ続けた挙句、悦びさえ刻み込まれた身であっても、恵利子はまだ十五歳の高校一年生なのである。
けして恥じらう心を失った訳ではないのだ。
「私は、君がまだ中学生の頃から、想いを募らせていた。ずっと君だけを見てきた」
二人を乗せた車は……
……は市街地を一周すると、恵利子が通う高校近くにある、マンション地下駐車場へと消えていくのである。