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追憶のアネモネ
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JK(後編)-1




「クリスマスセール実施中」と書かれた垂れ幕が商業ビルに掛かっている。

その建物の二階部分に宝飾品売り場があるのを僕は知っている。

もちろん婚約指輪なども扱っているはずだし、近い将来、そういう場所に恋人の恵を連れて行かなければならないと考えていた。

いや、ちょっと待て、サプライズで手渡してこその婚約指輪だから、恵を同伴させるわけにはいかないか。

すべての準備を自分一人でやり遂げ、あいつのことをびっくりさせてやろう。

きっと泣いて喜んでくれるに違いない。

それを見て僕もついもらい泣きするんだ。

なんという微笑ましい光景だろうか。

そんな妄想が現実になる日が来ることに、何の疑いも持っていなかったのに、それなのに……。

僕は公園のベンチに一人で座っていた。

がっくりとうなだれ、時々空を見上げる、その繰り返しだ。

あの恵がまさか浮気をしていたなんて、未だに信じられない。

しかも相手の男ときたら、いかにも金回りの良さそうな身なりをしていた。

つまり二股をかけられていたというわけだ。

そのことについて詰問したところで、恵はきっとこう言うだろう。

「浮気の原因はあなたのほうにもあるのよ」

思い当たることがあるだけに、おそらく僕は何も言い返せない。

けれども、恋人を裏切るなんてあんまりじゃないか、明らかにルール違反だ。

僕は雪雲に覆われた空を見上げ、それからあらためて公園内を見渡した。

犬の散歩をしている人がちらほらいるだけで、滑り台やブランコなどの遊具は無人だった。

そういえば……奄美梨花の姿が見当たらない。

彼女のことだから、あのまま真っ直ぐ家に帰ったのだろう。

まあ、あんな現場を見てしまったのでは無理もないか。

せっかく心を開いてくれたというのに、なんだか彼女に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

ふと、目の前に白いものがちらつきはじめた。

どうやらそいつは遥か頭上から降っているようで、地面に着く頃にはもう消えてなくなっている。

「雪だ……」

無意識につぶやき、右手を差し出した。

縦横無尽に舞う雪の欠片を掴まえるのはなかなか難しい。

するとそこに見知らぬ手があらわれ、僕の手に熱々の缶コーヒーを掴ませるのだった。

「あちっ!」

あまりの熱さに我に返ると、すぐそばにローファーを履いた足があるのに気づいた。

そこから視線を上げた時、僕はようやく笑顔らしい笑顔を取り戻すのだが。


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