JK(後編)-5
間もなくコーヒーが入った。
そこにシュークリームを添えて、二人してテレビを視ながら食べはじめるのだが、一人の時よりも美味しく感じるのは、ただの錯覚ではないように思えた。
あんなことがあった後だというのに、奄美梨花と一緒にいると傷が癒えるような気さえする。
そんな時に彼女がくしゃみをこじらせる。
「熱、あるんじゃないのか?」
僕はすぐさま薬箱をひっくり返して体温計を探した。
「おかしいなあ、確かここにしまっておいたはずなんだけど」
「どうぞお構いなく。多分、風邪じゃないと思うから」
彼女はそう言うが、表情はかなり熱っぽい。
ちょっとごめん、と断って、僕は彼女の小さなおでこに右手を当てた。
平熱か、いや、微熱があるかもしれない。
必然とお互いの膝が触れる距離で向かい合い、真正面から彼女の目をのぞき込む。
上目遣いに見つめ返してくる彼女。
そして僕は今頃になってようやく気がついた。
「奄美……」
名前と顔を確かめながら彼女の顎に指を添え、僕のほうからそっとキスをした。
誘ってきたのはおそらく、彼女のほうだ。
唇を重ねた実感が湧いてくるのも、もっともっと後になってからだろう。
今はただ、この少女のことが、奄美梨花のことが愛おしい。
不意に唇が離れると、謝るべきかどうかをまず考えた。
うつむく彼女の瞳が潤んでいたからだ。
甘酸っぱいシチュエーションに酔っていたせいで、相手が女子高生だということを忘れていた。
そして自分が高校教師であるということも。
繕う言葉がすぐには思い浮かばず、距離を置こうとした時だった。
彼女の右手が僕の左手首を掴んでいた。
そしてこう言うのだ。
「行かないで……」
それは僕の胸のいちばん奥にある何かを揺さぶり、デジャヴュとなってしきりに訴えかけてくる。
私の気持ちに気づいて欲しい、振り向いて欲しい、そばにいさせて欲しい──そんなメッセージが追いかけてくるのだった。
おそらくすべて彼女の仕業だ。
入学式、集会、部活動、合唱コンクール、夏期講習、そして文化祭……。
そこにはいつも奄美梨花がいて、離れた場所からずっと僕のことだけを見てくれていた。
「素直じゃないんだな、まったく」
僕は彼女を胸に抱き寄せる。
すると彼女は鼻声で言った。