JK(後編)-4
通りに面した窓に近づくと、しんしんと降りつづける雪のせいで視界が悪くなっていた。
こんな中を傘も持たずに歩いたらどうなるか、想像するのは容易いだろう。
ぐずぐずしている暇はなかった。
あわてて部屋の鍵を引ったくり、傘を二本持って玄関のドアを開ける。
するといきなり銀色の景色が目に飛び込んできた。
あまりの寒さに圧倒されて一瞬怯(ひる)んだが、胸の奥で燃えているものを信じて彼女を迎えに行くことにした。
けれどもだ。
「先生……」
予期せぬ方向から声がしたので、僕が反応してそちらを向くと、二階へ上がる外階段の下に奄美梨花がうずくまっていた。
型くずれした前髪が黒々と濡れている。
「こんなところで何やってるんだ。風邪でもひいたらどうする」
「ごめんなさい。でも、どうしても先生に会いたくて」
「そんなの、学校で会えるじゃないか」
「そうだけど……」
彼女の言いたいことはよくわかる。
「とにかく中に入れ。後で先生が送って行ってやるから」
「いいの?」
「しょうがないだろ。大事な生徒を置き去りにするわけにはいかないからな」
「さっきは平気で置き去りにしたくせに」
「あれはまあ、悪かったと思ってる」
僕は素直に反省の弁を述べた。
すると彼女が僕の足元を指差しながら笑い出した。
「先生、それ」
「えっ?」
「その靴」
彼女の指摘に目線を下げると、左右あべこべに靴を履いている自分の足が見えた。
「そんな靴を履いて、どこに出掛けるつもりだったの?」
「それはほら、コンビニにでも行こうかと思って」
「ふうん。じゃあ、傘を二本持ってるのはどうして?」
もちろん君を迎えに行くためにだよ、なんて言えるはずもなく、僕は曖昧に答えながら震える彼女を部屋に上げた。
「おじゃまします」
何気なく揃えられたローファーのとなりに、薄汚れた僕のスニーカー。
そして狭いアパートの一室に女子生徒と教師が二人きり。
「その辺に適当に座ってていいよ」
僕は彼女にバスタオルを手渡し、キッチンにてやかんを火にかける。
コーヒーの支度をするためだ。
同時にエアコンの設定温度にも注意する。
「先生って意外とマメだよね」
そんな声がリビングのほうから聞こえてきた。
「そうか?」
「うん。何でも一人で出来そうに見える」
「それは先生が大人だからだよ」
「あたしはまだ子どもだから、一人じゃ何にも出来ないけどね」
「まあな」