ピンクスパイダー-1
よく晴れた日の朝。
小さなクモが木から木へと糸を垂らしている。
スパイダーのフィーゴは今日も自らの糸で形の整った巣を作っていた。
不幸にも張りついてしまった者は全て彼の糧となってしまうのだった。
虫たちは彼の縄張りを避け彼は孤独な狩人だった。
彼は愛を知らなかった。
生きるための狩り。
そんな毎日の中で彼は疑問を感じていた。
「なぜ、生きるんだろう」
昨日張りついた蛾を糸で包み今日の夕飯に充てるように準備しながら
彼は自分の生きる目的を考えていた。
「このまま孤独に生きてくのだろうか」
この大きな多角形の巣は、自分の生きている証。
そして生きるための武器である。
でもなんのために?
ある日、キレイな蝶がヒラヒラと舞ながら花の蜜を求めてフィーゴの縄張りに近づいてきた。
突然の強風。
蝶は風に煽られ
フィーゴのネットに両羽根を縛られてしまった。
バタバタと燐粉を撒き散らしながらもがく蝶。
糸から伝わる振動でフィーゴは目を覚まし巣に降りてきた。
格好の獲物。
にじり寄るフィーゴに蝶は危険を感じて尚も藻掻いた。
藻掻けば藻掻くほどに
糸は絡まり蝶の自由は完全に奪われてしまった。
牙を剥くフィーゴ。
しかし、先程の疑問が頭から離れない。
思い切って蝶に話しかけてみた。
「君は何のために生きる?」
蝶は以外な質問に驚きを隠せないでいたが、
一言こう答えた。
「空を飛んでいると知らない世界に逢えるわ。
それだけでもワタシは生きていることにワクワクするの。
飛べないクモさんにはわからないでしょうけどね。」
フィーゴは空を眺めてみた。
思えばうす暗い、そして狭い世界しか知らなかった。
それが全てだと思っていた。
空を飛べないフィーゴにはそれを知るすべがなかった。
蝶は糸で羽根を傷つけ、
もう飛ぶことはできなくなった。
「アナタはアタシの飛ぶ力を奪えても自分で飛ぶことなんて出来やしないものね。」
死を覚悟し皮肉の一つでも言ってやろうと、
勇気を振り絞って震える声で言った。
フィーゴは自分の限界を思い知らされ落胆しながらめこう尋ねた。
「世界には何がある?」
羽根の痛みを堪えながら蝶は続けた。
「大きな水のかたまりや、ここよりももっと大きな木。それにキレイな花畑もあるわ。」
そう言い残すと蝶は触角が垂れ下がり息を引き取った。
「水の固まりに花畑か。」
フィーゴは屍と化した蝶に糸を巻き付けながら呟いた。
「おれにも羽根があったら……」
それから
フィーゴは木の頂きを目指し登りはじめた。
自分の知らない世界に魅かれ始めていた。
ようやく頂きに着くと、そこは今までとはまるで違う景色が広がっていた。
「おれだって飛べるはずだ。」
フィーゴは願いを込めて
頂きから飛んでみた。
刹那カラダは上昇したが、重力という地球を支配している魔物には勝てず、
急降下していった。
「やはりだめか。」
地面に打ちつけられ、
その痛みと敗北感にカラダは震え
悲しみが押し寄せてきた。