ピンクスパイダー-2
そんなフィーゴの様子を初めから見ていた昆虫がいた。
蛾のベネドバである。
ベネドバはクモのネットに捕まらないように一定の距離を保ちながらフィーゴに近づいてきた。
「おまえは飛べるはずがない。よく自分を見てみろ。
おまえには羽根がないじゃないか。」
不意の来客の痛烈な一言に怒りを顕わにしながらフィーゴはこう尋ねた。
「じゃあどうしたら飛べるというんだ・」
バタバタと醜く飛ぶ蛾にすら羨ましさを感じる心を押し殺してフィーゴは睨みつけた。
ベネドバは曇った眼光でフィーゴを見下ろしながら呟いた。
「次に捕まった蝶の羽根を頂いてしまえ。飛べるかもしれない」
意外な提案がフィーゴを突き動かした。
寝る間も惜しみ蝶がやって来るのを待ち構えた。
数日後。
立派な羽根をもったアゲハ蝶がヒラヒラを舞ながら巣に近づいてきた。
あの羽根なら……
フィーゴは機が来るのを待ち望みながら蝶を見つめていた。
不用意にも蝶はクモの巣に残った仲間の残骸に近づいてきた。
葉の下に隠れて見えない糸が蝶を捕らえた。
もうなると、もう逃れることは難しい。
フィーゴは糸をつたって蝶の目の前にやってきた。
「おれは空が飛びたい。
まだ見たことのない世界を見てきたいから、おまえの羽根を頂く。」
蝶は臆することもなく
目前のクモを見てこう言った。
「ワタシの羽根を使うがいいわ。
ただし、飛べたとしても
飛び続ける辛さを知らないアナタにそれが耐えられるかしら。
飛べることはすばらしいけど、その全てが幸せとは限らないわ。」
フィーゴは羽根を傷つけないように剥がし取り、
自分の糸で背中に固定した。
そして意気揚揚と頂きを目指して登っていった。
ようやく頂きに辿り着いたフィーゴ。
ちょうど風も出てきた。
飛び立とうとするが、先日の墜落した時の恐怖がふと蘇る。
おれには飛べる筈ないんじゃないのか。
疑心暗鬼が心の暗い場所を浸食しだした。
恐怖心。
彼は空を見上げた。
キレイな真っ青な空が広がっていた。
目を閉じ、うまくはばたく自分を想像してみた。
できるさ。
そう信じて飛び立ってみた。
羽根はぎこちなくはばたき始めた。
上昇していく。
おれは飛べたんだ。
それも束の間。
風に乗って上昇したに過ぎなかった。
一転して
墜落していく。
借り物の羽根じゃうまく飛べない。
真っ逆さまに。
墜ちていった。
重力に耐え切れずに糸で結び付けた羽根はバラバラと剥がれ墜ちた。
そう彼の自信と同じように。