JK(前編)-1
十二月二十四日がすぐそこに迫っているというのに、僕は未だに恋人へのクリスマスプレゼントを準備できないでいた。
お互いに結婚を意識する年齢に差しかかっているから、そろそろ婚約指輪でもどうかと考えてはいるものの、いざとなると怖じ気づいて二の足を踏んでしまう。
「焦ることないよ。私なら大丈夫だから」
そんなふうに言ってくれる彼女の優しさに甘えてばかりで、いつまで経っても明確な答えを出せない愚か者──そう、僕は愚か者だ。
ふと見上げると、高層ビルの向こうに灰色の空がのぞいていた。
日本列島の上空に寒気が流れ込んでくる、というような予報を今朝早くに聞いたのを思い出した。
雪でも降るのだろうか、などと心配しつつ歩く速度を上げて目的の店を目指し、やがて特徴のある白壁の建物にたどり着くと、入り口の手前で時刻を確認する。
九時五十七分──開店まであと三分。
デートの約束はよくすっぽかすくせに、とくに予定のない今日に限って早めに到着するなんて、自分のことながらわけがわからない。
が、そんなことはどうだっていい。
とにかく手短に用事を済ませ、さっさと自宅に帰るつもりでいる。
すると間もなく入り口のドアが開き、パティシエ風の女性が外に出てきた。
彼女は僕を見るなり丁寧に会釈をよこし、いらっしゃいませ、と挨拶を添える。
どうも、と短く応じた僕はそのまま店内へ。
正面に雛壇とショーケース、そして奥のほうには喫茶スペースが設けられている。
もちろん僕が一番乗りなので、喫茶スペースにはまだ誰も座っていなかった。
ふたたび視線を戻し、ずらりと並んだ洋菓子たちを心行くまで観賞する。
あれもいいし、これもいい。
「すみません」
僕は店員の女性に声をかけ、持ち帰り用にシュークリームを、それからチーズケーキを追加で購入した。
暖房の効いた店内はほぼ貸し切り状態だ。
窓際の席にぽつんと座り、そこから臨む街並みを眺めながらブレンドコーヒーをすする。
するとそこへ、僕の視界を横切る人影が……というより自転車に乗った少女なのだが、僕は彼女の顔に見覚えがあった。
直後にブレーキをかける音が聞こえ、先ほどの少女が店に入ってくるのが見えた。
私服姿なのでいつもと印象が違うけれど、間違いなく僕の勤める高校の生徒だった。
どうやら一人で来たらしく、ほかの生徒は見当たらなかった。