JK(前編)-7
すると恵に似た例の女性がバッグの中身をさぐり、携帯電話を取り出して耳に当てた。
「もしもし?」
恵が電話に出た。
「あっ、僕だけど」
「急にどうしたの?」
「いや、別に用はないんだけどさ。ええと、実家のほうはどう?」
「実家?」
不意を突かれたように恵の声が険しくなる。
「ああ、うん、お父さんもお母さんも元気にしてる」
「そうか……」
電話口で相槌を打ちながら、僕は道路の向こう側の女性に視線をそそいだ。
間違いなく電話でのやり取りとシンクロしている。
だったらなおさら腑に落ちない。
なぜ実家にいるなどと嘘をつく必要があるのか。
すると不動産屋の出入り口からスーツ姿の男があらわれ、そのまま恵のほうに近づいた。
恵も男のほうを振り返り、かなり親しげに笑顔を交わす。
「ごめんなさい、ちょっと手が放せなくて」
そんな恵の言い訳を聞きながら、この男は一体何者なんだと頭の中で繰り返し唱えた。
誰なんだ、誰なんだ、誰なんだ……。
「また後でかけ直すから。じゃあね」
恵は一方的に電話を切り、スーツの男と腕を組んでいちゃついた後、人通りの少ない路地へと消えていった。
その一部始終を見ていた奄美梨花も、そして僕も、放心状態のままその場から一歩も動けなかった。
馬鹿みたいに突っ立ったまま、歩行者専用の青信号が点滅するのをいくつも見送った。