JK(前編)-5
そう言ってどこまでもくっついてくる彼女に対し、僕はさり気なく歩調を合わせてあげた。
「学校はどうだ。楽しいか?」
情けないことに、僕はその程度の話題しか持ち合わせておらず、けれども彼女はとても嬉しそうにはにかみ、すごく楽しいと言ってくれた。
勉強と部活は頑張っているけれど、恋愛はなかなかうまくいかない、とも。
「全然あたしの気持ちに気づいてくれないの」
「片思いなのか?」
「多分。でもわかんない」
「だったら告白してみればいい」
「そんなの無理。だって自信ないし」
「やってみなきゃわからないだろ。それに相手の人だって奄美のことが好きかもしれないし」
「えっ?」
何かの魔法にかかったように彼女が立ち止まる。
うるうると瞳が揺れ、そこを縁取るまつ毛に僕は見入ってしまった。
だが魔法はそう長くは続かなかった。
会話が途切れたまま二人並んで歩き出し、どちらからともなくほぼ同時に口を開く。
「奄美」
「先生」
打ち消し合う声がまだ熱を帯びているうちに、彼女がこう切り出す。
「先生の家に遊びに行ってもいい?」
いいに決まってるだろ、とは言えない自分が歯痒かった。
「遊んでる暇があったら勉強しろ」
「じゃあ勉強教えてよ」
「それはまあ……学校でならいくらでも教えてやる」
「んもう、そんなに拒否しなくてもいいのに」
「拒否してるんじゃなくてだな、ほら、変な噂が立つと困るだろ」
「あたしは困らないもん」
こんな具合に、大人の事情などお構いなしだ。
さて、どうしたものかな。
「しょうがないな」
僕のこの台詞をずっと待ち望んでいたのだろう。
彼女は天に祈るような仕草をして、それから弱々しく微笑んだ。
「言っておくけど、今回だけだからな」
そうでも言わないと、僕自身も深い穴に落ちてしまいそうでこわかった。
明日のことは明日になってみないとわからない。
極端な話、今日で世界が終わるかもしれないのだ。
だから今だけは彼女の気持ちを尊重してやろうと思った。
僕らはまた同じ方向に歩き出した。
歩きながらしゃべった。
それこそほんとうのカップルのように、常に人目を気にしては、他愛もない会話に時間を費やした。
クリスマスの話題になり、恋人と一緒に過ごす予定だと僕が言ったら、彼女はあからさまにがっかりしていた。