追憶のアネモネ〜捨てられない女〜-5
「こう見えてわたし、二十歳そこそこの頃にAV女優をやってたんです」
「それ、さっきも聞いたような」
「それでまあ、一応仕事なんで、いろんな撮影をするわけなんですけど」
「なんか生々しいわね」
「ようするにアブノーマルなプレーなんかもたくさん経験してきたんです。あんなのとか、こんなのとか」
「うんうん」
「だからその、カメラの前でオナニーをやらされたりとかして……」
その場面を想像して晴美は唖然とした。
まさか同じ職場の社員がそんなことに手を染めていようとは思いもよらなかった。
しかも話を聞いているうちに胸がどきどきしてきた。
「どんなふうにするの?」
興奮のあまり晴美は思わず訊いてしまっていた。
「どんなふうって、たとえば指でしたりとか、後は普通にピンクローターとかバイブレーターとか」
「他には?」
「気になります?」
奈央はネイルチップを施した人差し指を立てた。
「野菜を使います」
「や、野菜?」
「女の子が胡瓜でオナニーをすると、そういう性癖のある男の人とかは結構よろこぶみたいです」
「へえ、そうなんだ」
晴美は複雑な気持ちで先ほどのお新香の味を思い出していた。
「もちろんコンドームはちゃんと被せてあるのよね?」
「それが、被せないこともあったり、なかったり……」
「なんか体に悪そう」
「ああ、でもアレですよ。産婦人科で検査をしたりしてますから」
「でしょうね」
「それで、使用済みの胡瓜のことなんですけど」
「分別して処分するんでしょう?」
「はい……と言いたいところですけど、それだと地球に優しくないじゃないですか」
無理矢理エコの話に誘導されたような気がして、晴美はきょとんとした。
そこへ奈央のとんでもない一言が炸裂する。
「男優さんに食べてもらうんです」
やっぱり、という思いが晴美の胸に広がった。
ただでさえ免疫のない話題なのに、奈央はさらに過激なことを言い出した。
「そんなことばかりやってたんで、いつの間にか私生活までそんなふうになっちゃってて」
「そんなふうって?」
「捨てられないから食べてもらうんです」
「何を?」
「わたしのラブジュースにまみれた胡瓜をです」
「誰に?」
「彼氏」
「さすがにそれはアウトでしょう」
「塩味が効いてお漬け物みたいな味がするんだそうです」
「考えらんない」
「別にいいじゃないですか。誰にも迷惑かけていないんだし」
奈央は開き直った。